第11話 ボスと問題
双子がシスターを屋敷に連れて来る少し前、クラウスは出された書類を前に頭を抱えていた。
「何かの間違いじゃないのか?」
「いえ、我々も目を疑いましたが間違いありません」
書類はクラウスが部下に命令して作らせた双子のエルとアールの調査書と、シスターの街での行動だった。
双子は特に問題なかった。ないわけではないが、シスターに比べればないに等しい。双子に直接聞いて確認すればいいだけなのでないと言えばない。
問題はシスター。
疑っていたような行動は一切なかったのでこちらもないと言えばないのだが、日常の行動が色々と問題しかなかった。
「朝昼は木に登ったきり降りてこず、夜しかも深夜にようやく降りてきて店や家の捨てたゴミを漁り噴水の水を大量に飲んでまた木の上に戻り夜まで降りてこない……尾行にバレた故の行動か?」
「確かに気配には敏感で、街を歩いている時頻繁に後ろを振り返っていましたが気づいた様子はありませんでした。そしてゴミ漁りの手つきと、生ゴミを口にするのに全く躊躇いがなかったので日常かと」
書類の内容を読むだけでなく口にしたことでより脳が理解することを拒み、クラウスは額を押さえる。
「野良の犬猫以下だな」
「それと……あ、いえ報告は以上です」
「途中で止めるな。取るに足らん事でも構わん、言え」
クラウスがそう言うと部下は一度戸惑ったような表情になったが、すぐにまた元のキリッとした表情に戻り報告を続けた。
「監視中、一人の男に声をかけられていました」
「この野良以下の女に?」
「動いていなければ見た目はそれなりに良い方かと……」
「で、ナンパされて報告は終わりか?」
「いえ……その声をかけた男というのが闘技場の主の一人息子です。そしてこの息子を全く相手にせず、何か喚いているのも無視してその場を去りました」
「よし、この女とはもう関わらないでおくか」
クラウスはそう言ってシスターの書類だけを片付け始めた。
闘技場の主はこの街を治めている四大貴族の一人であり性格は誠実で礼儀と常識のある評判高い人物なのだが、この一人息子は問題児だった。
この息子、親が偉いから自分も偉いと、下手すると自分が偉いから親も偉いのだと勘違いしている高慢な男で周りからの評判もすこぶる悪い。親の評価が高いだけにとにかく悪い。
親もきちんと教育し、叱る時はしっかり叱っているのに何故こんな性格になってしまったのか不思議で仕方ない。
クラウスも四大貴族の一人なのでこの息子が何か仕掛けてきたところで問題はないが、不愉快な人物に進んで関わる気はない。
「違法薬物に手を出していれば販売元を問いただして金品を奪えるからまだ得もあるが現状何もなしだからな、こっちには損しかない」
「その金品も、先日の人身売買の違法取り引きを行なっていた教会の分がまだ残っています」
「金はあるにこしたことはない」
「はっ、失礼致しました」
書類も片付け席を立つボスに、そういえばと部下が思い出したように話しかけた。
「クライス様はどうされますか? あの女性を気にかけていたようですが」
「もう監視を外すことを言えば十分だろう。あの女もどうせ明日、いや今日の晩にでもバカ息子に闘技場へ連れて行かれて終わりだろうが、それをどうにかしてやるほどの義理はない」
話は終わり、問題も後は双子と話すだけで解決だとボスは心軽くドアを開け部屋から出た。
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