第8話 仲直り?
シスターを探す為に街へ出た神父はかなり時間がかかるだろうなと覚悟していたが、拍子抜けするほどあっさりとシスターは見つかった。
「何をしているんだ?」
闘技場の前でジッとしたまま動かないシスターに思わず普通に話しかけてしまったが、今更なかったことには出来ないのでそのまま気にしないことにして話を続けていく。
「……誰」
いきなり後ろから話しかけられ驚いたのかシスターは勢いよく振り返ると思い切り眉を顰めた。
明らかに警戒されているが、よく考えればシスターはクライスの神父姿しか知らず、そもそも顔すら見ていない可能性が高い。
「覚えていないか? 教会で双子を助けた時に会っただろう、神父と言えば分かるか」
「……ああ、何か用?」
『神父』で思い出したらしく、シスターは納得したのかそのまま逃げる様子もなく神父の方へと向き直った。
「お前が屋敷から逃げたから探しに来たんだ。まだ治療も終わっていないだろう」
「屋敷? ……治療? ……あー、れ……」
いぶかしげなシスターだったが、急に目を泳がせそわそわと落ち着かない様子になっていく。
その様子に今度は神父が疑わしげにシスターを見ていると急に「ごめん」と謝られ、予想外の事に今度は神父が動揺した。
「は、え、何だ、急に」
「その……家、壊して。目、覚めたら注射器あったから驚いて……お金とか何も持ってないしどうしたら……」
「い、いや家とは言ったがあそこに住んでいるわけではないから構わない。それよりお前の怪我だ。お互い勘違いしていたとはいえ俺が怪我を負わせたんだ、屋敷に戻って治療を受けろ」
想定外の反応にペースを乱されるもなんとか持ち直し、屋敷へ戻るように言うが何故かシスターは「行かない」と断ってしまった。
「もう動けるし、ジッとしてれば治るから」
「だが……」
あまりしつこくしては相手に不信感を与えてしまう上に今は人の目もある。
これ以上は無理と判断し、神父は引き下がることにした。
「いや、無理強いは良くないな。分かった、その代わり体調が悪化したならいつでも屋敷に来い。屋敷の事も金も気にする必要はない」
「へ、え、あ、ありがとう……」
今度はシスターが挙動不審となったが神父は気にせずその場を去り、丁度追いついて来た部下に監視を命じると屋敷へと帰っていった。
そして今現在、神父はボスの部屋で正座をさせられていた。
目の前には仁王立ちのボス。
「で? 仲直りして何もせずそのまま帰ってきたのか?」
「仲直りというわけでは……それに何もしてないわけじゃない。部下にはきちんと監視を命じたし、あれ以上場を長引かせて人目を引くのは避けるべきだと判断しただけだ。あの女、未だに修道女の服を着ていたからな」
「む……だが……」
神父の言い分に納得したようだがまだボスは何か言いたげに口をモゴモゴさせている。
話は終わったと神父は立ち上がると膝を軽く叩き埃を落としてから話を続けた。
「……俺はあの女と話してシロと判断したが、お前が疑うのは分かる。監視はつけたんだ、もしあの女が違法薬物に手を出していればすぐに分かる」
「……そうだな。まあ、ハーヴィーからの報告だと薬物反応は無かったみたいだがな」
「なら何でまだ疑っているんだ」
「疑っているわけではないが、魔法反応なし薬物反応なしであの怪力は何なのか分かるか?」
「……。まずは部下の報告を待つか」
「ああ」
******
神父がボスに報告している間、二人は屋敷内を歩きながら先程の医者を探していた。
あれから途中までは一緒だったのだが、ボスがメイド長を呼びそこからはボスと別れてしまった為医者の安否が分からない。
「あ、いた!」
二階の端にある部屋から出てくる医者をアールが見つけ二人揃って駆け寄った。
「おや、君達は……」
「良かった、生きてたんですね」
「ボスに殺されたんじゃないかって心配してたんです」
本気でそう思っている双子に医者は「大丈夫ですよ」と答え軽く笑う。
「クライス様もクラウス様も、裏切ったり敵対さえしなければ寛大で心の広いお方ですよ。先程のは私が怪しい人物を不注意で逃してしまったから怒られていただけです。今だって私が住居にしていた医務室が治るまではこの屋敷で過ごす許可を与えてくださいましたから」
しかしやはり罰はあるらしく、ここの屋敷で一ヶ月過ごしその間通常業務に加えてメイド長の仕事を手伝うことを命じられたと、遠い目をしながら話している。
「メイド長さんのお仕事……」
「屋敷の掃除、庭の手入れです。食事の用意まで命じられなかったのは救いですね」
「……ここってメイドいないんですか? メイド長はいたけどこの人しかいない気がするんです」
「ああ……ついこの間メイド長以外の者が問題行動を起こして……人を用意するには時間がかかりますからね」
おそらく、その人が用意できるのに一ヶ月かかるのだろうと双子は予想した。
しかしこの広い屋敷をメイド長と二人、しかも医者は通常の仕事もこなしながら。
「あの、僕達も手伝っていいですか?」
「僕達神父様とボスに少しでも恩返ししたいですし、役に立ちたいんです」
「それは私ではなくクラウス様に言ってください。クラウス様が許可してくださるまでは勝手なことをしてはいけませんよ」
「分かりました!」
「じゃあ今すぐボスの所へ行ってきます! 行こうエル!」
「えっ」
アールに引っ張られる形でエルもすぐにボスの元へ向かい話をすると、仕事中は必ずメイド長か医者が一緒にいるのならという条件付きで許可が出た。
「何か子供扱いされている気がする……」
「いいえ、決してそんな事はありません。クラウス様はお二人のことを完全に一人の人間として見ていらっしゃいます」
「メイド長さん」
「モニカとお呼びください」
「はい、モニカさん」
「えっと、お医者様は?」
「ハーヴィーです。いいですか、絶対に私達がいない時に勝手なことをしてはいけませんよ。これは子供扱いしているのではなく、クラウス様が一人の人間として見ている故のお願いです」
「は、はあ」
宥めるというものではない二人の必死な形相に思わず頷く双子だった。
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