第7話 シスターの逃走
あれから数日。双子はシスターとは会えないまま今日もせっせと食器を洗っていた。
「今日の仕事は終わったし、シスターのところに行こうか」
エルが最後の食器を棚にしまい終えてからそう言うと、アールも頷き早速部屋から出たところで足を止めた。
「シスターって今何処の部屋にいるか分かる?」
「分かんない。けど、神父様かボスなら知ってるんじゃないかな」
「神父様の部屋は?」
「……知らない」
今現在双子が把握しているのは自分達の部屋と風呂とトイレ、そしてボスの私室だけ。
ボスならシスターの場所を知っているだろうが、初対面で恐怖意識を持ってしまったエルは出来れば避けたい。
避けられないのならせめて神父がいてほしい。
「……ボスの部屋に行く途中で神父様に会えるように祈ろう」
いくら神父の兄と言われても昨日の今日で簡単にボスへの恐怖は消えず、しかしシスターのことを諦めることが出来ない双子は意を決してボスの部屋へと向かった。
「……結局誰にも会わなかったね……」
今、双子はボスの部屋の前で立ち尽くしていた。
出来る限り回り道をしたにも関わらず、何故か誰一人と会うことはなかった。
「皆仕事中、にしては僕達みたいに屋敷の掃除とかしてる人にも会わないってのは変だよね」
「そういえば……昨日神父様が屋敷で働いていた人は消えたとか消したとか言ってたような……」
「働く人を探していた、だよ。アール……何で今そういうこと言うかな……」
ボスの雰囲気から考えて『消した』の方が正しい気がしてエルはもう半分泣きそうになっている。
しかしここまで来て帰るのも出来なかったので覚悟を決めてドアをノックするとすぐに「入れ」と返事はあったが、双子は一度ゆっくりと深呼吸をしてから静かにドアを開けた。
「あ、あの失礼しま、す……?」
恐る恐る中へ入ると中にはボスだけでなく神父もいたのが、その神父が昨日と全く違う服を着ていたことに驚き双子は思わずそちらを凝視して固まってしまう。
「あれ、神父様……? その格好は?」
「俺は元々神父じゃないからな、昨日は教会に潜入する為にあの格好だっただけでこっちが普段の姿だ」
そう話す神父はボスと似たような服を着ているが色は茶系統を基調に動きやすさ重視といった感じで、無駄な装飾は一切なく靴もボスとは全然違いかなりゴツくていかにも戦い慣れているという感じが漂っている。
「そんな、神父様じゃないならこれから神父様のことを何て呼べば……」
「普通に名前で呼べばいい。クライスだ」
「クライス様……もう神父様と呼んではダメですか?」
「アール、何でそんなショック受けてるの……?」
「で、お前達はクライスの呼び方の為だけにわざわざここに来たのか?」
「あっそうでした、実はボスに聞きたいことがあるんです。あの、シスター……」
アールの言動に気を取られていたエルだが、ボスに話しかけられシスターの居場所を聞こうとした時だった。
遠くからだがはっきりと何か硬いものを殴ったような音が響き、それとほぼ同時に建物が崩れるような音が聞こえてきた。
「侵入者か!?」
「シスターだ!」
「シスター!!」
「あ、こら! お前達だけで行くな! クライス!」
「ああ!」
双子が音の出所へと走り出したのを見て慌てて神父とボスも共に後を追った。
勢いで飛び出した双子と違って神父とボスは迷うことなく目的地へ向かい、今度は双子がその後を追う。
神父とボスは屋敷から出るとすぐ近くにある建物へ入っていき、そのまま一番近くの部屋の中へと入っていった。
「何ここ、医務室?」
「わざわざ専用に建てたんだ……」
その建物は入ってすぐに分かるほど消毒液の匂いがただよい、部屋には薬瓶など医療に必要と思われる薬や道具が棚にビッシリと並べられている。見た感じ普通の病室のようだったがベッド付近の壁にはポッカリと巨大な穴が空き、壊れた棚からは薬が零れたり壁の一部は今もポロポロと崩れ落ちている。
そしてその部屋には医師と思われる中年の眼鏡をかけた男性が呆然とした感じて突っ立っていた。
その男性はボスの姿を見るや我に返ったのか顔を蒼褪め、その場で額を打ち付けんばかりの勢いで土下座して謝罪を繰り返した。
「クラウス様! 申し訳ありません!! まさか壁を破るとは思わず……」
男性は見るからに全身をガタガタと震わせ声も震えている。
「言い訳はいらん。何があった」
「は、はいっ。ですが話すことが本当になく……本当に……」
「話せ」
「そ、その……変わらず目を覚ます様子もなかったので……っ……く、薬の在庫を確認しようと……せ、背を……」
「……背を向けたのか?」
「ひっ、も、申し訳ありません!! 決して目を離すなというクラウス様の命令を無視したわけではありません!!」
「クラウス、そいつの処罰は後だ。今はあの女を探すのが先だ」
「チッ、分かっている。お前は今すぐ女を探しに行け、部下にも行かせる」
「分かった」
神父はそういうとシスターが開けたと思わしき穴から出て行き、双子も後を追おうとしたが後ろから服の首襟を引っ張られえずいた。
「ぐえ、ボ、ボス?」
「お前達は行くな、手間が増える」
「え、でも……」
「この街は初めてなんだろう。道とか分かるのか」
「あ」
「分かったなら屋敷に戻るぞ。お前達はメイド長の所にでも行って何か新しい仕事を習ってこい」
「はい……」
ボスに言われて初めて気づいたが、双子はこの街は初めてで名前すら知らない。
そんな状態では逆にこちらが迷子になり、かえってボスの迷惑になってしまうと理解した双子は大人しくボスに従った。
「……」
「……」
「……」
「……っ、ぅ……」
ボスも屋敷へと戻るらしく同じ道を歩いているが、その右手は先程の医師の頭を鷲掴みにしている。
かなり力を込めて掴まれているのか医師は苦しそうにしているが抵抗する様子もなく、大人しく半分引きずられながら必死に歩いている。
何か言える空気ではなく、言う勇気もない双子は医師を視界に入れないようにしながらひたすら無心に、心持ち早足で屋敷を目指した。
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