第6話 神父も双子
ここまで思い出したところで丁度皿も拭き終わり、双子はため息をついた。
「昨日じゃなかったね。この屋敷に着いたのが昨日だった」
「うん。しかもここ来るの馬車で二日ぐらいかかったよね、途中街に寄ったりして」
混乱の連続だったとはいえ記憶があやふやになっている事にエルは少し落ち込んだ。
しかし、こうして全部を詳細に思い出すことが出来たのは本当に安心できる場所に落ち着けた証拠だとアールは励ます。
「そういえば、あれからシスター全然目を覚ましてないね」
「そうだね……大丈夫かな」
シスターは屋敷に着くとすぐ専属医師の元へ運ばれ、双子は神父に連れられ屋敷の主の所へと連れていかれた。
屋敷の見た目は他の貴族が住む家より少し大きめな感じだったが、その中はあの教会以上の豪華さでしかし下品な感じは一切なく非常に高級な美術館のようだった。
廊下だけでもふかふかの絨毯が隙間なく敷かれており、部屋のドアも一つ一つ違う装飾がされかなり凝っている。
「クラウス、入るぞ」
その中でも一際目立つドアの前で立ち止まると神父はノックをして中へと入り、双子も後に続いた。
部屋の中には神父と同じ黒い髪に黒い瞳、そして同じ顔の男性が机で何か作業をしていた。
一度こちらを見ると視線は机に戻ったが、すぐにまた顔を上げ双子を無言でジッと見ている。
「え、と……あの……」
「その子供は?」
「あの教会に捕まっていた子供達だ。帰る場所がないというから連れてきた。屋敷で働く人間を探していたところだったから丁度いいだろう」
「いや身元とか……まあ、問題があっても消せばいいだけか」
ボソッと小声だったがエルにはしっかり聞こえ、背中に冷や汗が流れた。
この屋敷の主、クラウスは神父と顔はそっくりなのに不思議と似ていない。
今は席を立って神父と話しているが、神父は筋肉質のガッシリとした体格に対して屋敷の主は鍛えてはいると思うが神父程ではない。そのせいか身長も神父の方が高く見える。
そして何より雰囲気が全く違う。
服装は黒を基調とした貴族の服なのだが、今の発言といいこの雰囲気といい、どう見ても闇組織のボスにしか見えない。
「まあそういうわけだ、お前達には屋敷の雑用をしてもらうがいいな」
「はい! ボスの為に一生懸命働きます!」
「……ボス?」
「うわあああ、アール!! ごめんなさい!! でも僕も同じ気持ちです! 誠心誠意働きます!」
いきなり話しかけられたからか思っていたことが口に出たアールにエルは全身から血の気が引く思いをしながらアールの頭を押さえ、自分も頭を下げ必死に謝った。
「ボス……そんな風に見えるのか?」
「あながち間違いじゃないだろう」
「……。確かにそうだが、初対面でそう呼ばれるとは思わなかっただけだ」
「(否定してほしかった! 怒っていなさそうなのは良かったけど、でも否定してほしかった!)」
エルは心の中でそう叫んだ。
そうしているうちに怒られなかったからかなのか、アールがゆっくりと頭を上げボスに話しかける。
「あの……」
「ん、ああ。兄のことはそのままボス呼びで構わないから気にするな」
「はいっ!」
ボスが何か言う前に神父がそう言うとアールは嬉しそうな声で返事をし、エルはようやく安堵の息をついて頭を上げた。
「神父様のお兄さんなんですね、どうりで顔がそっくりと思いました」
「ただの兄弟じゃないぞ、お前達と同じ双子だ。まあ見た目はそう似ていないから間違えることはないだろうがな」
「とにかく話は以上だ。悪いが今から大事な話をするから部屋を出てもらう、人を呼んだからこれからの生活と仕事の内容についてはそいつに聞いてくれ」
ボスはそう言うと双子の背中を押して部屋のドアを閉めてしまった。
一瞬どうすればいいのか分からず立ち尽くした双子だったがすぐに人が現れ、言われたとおり屋敷の中での生活場所や仕事内容の説明をしてくれた。
その途中シスターの事が気になり尋ねてみると今も意識は回復しておらず面会謝絶だと断られてしまい、結局その日はシスターに会えずに終わってしまった。
******
場所は変わってボスの部屋の中。神父とボスは二人だけで真面目な顔で話し合いをしていた。
そこには先程まで双子と接していたような、まずまず暖かくそれなりに優しい雰囲気はない。
「本当に大丈夫なのか? 」
「双子のことか? 密偵だとしてもそんなすぐに行動はうつせないだろうし、その間に調べ上げることは可能だ」
「それはそうだが……にしても、いつもなら孤児院に渡すのに何故あの子供達を連れてきた。双子だからか?」
「同じだから、だ」
「同じ?」
ボスの問いに神父はふ、と口端を上げた。
「あの双子の名前はエルとアール。そして双子いわく母親に双子の弟だけが売られたから、だそうだ」
「……ああ、なるほど。それなら確かに同じ、ただし『かも』だな。で?」
「え?」
ボスも神父の答えに何が言いたいのか分かったらしく神父の同じように笑ったが、次の瞬間にはその笑顔が完全に消え去っていた。
「あの女はどんな理由で連れてきた。教会関係者ではないらしいが、あの双子以上に怪しい奴を安易に連れてくるな」
「それについては謝るがあの女は俺の勘違いで怪我を負わせたからな、完全とまでは言わないが多少回復するまでは待ってくれ。基本屋敷内は彷徨かせないし常に監視はつけておく」
「それは当然としてだ、あの女の怪力の原因を調べておけ。魔法による身体強化ならともかく薬を使ったものなら何をしてもいい、何処で仕入れたか吐かせろ」
「それについては分かっている。言われるまでもないさ」
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