第5話 神父VSシスター
「どうしよう……」
どうしようもなく双子は窓を見上げた。
小さな窓から見える空は真っ暗で何も見えない。
「今何時だろう。もう今日って言ってたから深夜とは思うけど……ダメだ、全然分かんない」
「逃げられたと思っていたのに……」
「アール、シッ。何か聞こえない?」
「え?」
泣きそうになっているアールをエルが止めジッと耳をすました。
確かに外の方から何かドタバタと騒がしい音がかすかに聞こえる。
それと同時にドアの外もから女性と思わしき会話の声も聞こえ、勢いよくそのドアが開いた。
「ああ、いたいた。それじゃ、もう行っていいから」
そう言って入ってきたのはアリスと同じ修道女の服を着た女性。
もう一人同じ服を着た女性は最初の女性が部屋に入るや「アリス様!」と叫びながら何処かへ走り去ってしまった。
女性はそのまま双子が閉じ込められている檻へ近寄り、双子は威嚇するように思い切り睨みつけたが違和感を覚えてすぐに止めた。
その女性は修道女の服を着てはいるが、アリスと違いところどころよれて皺になっていたり髪の毛も全部しまえず黒い髪があちこち飛び出している。
見た目だけでは分からなかったが、さっきのあまり愛想がいいとは思えない話し方と声でようやく思い出した。
「貴女は……もしかして、最初に僕達を助けてくれた……」
「あの時の人! 僕達のこと助けに来てくれたんですか!?」
「助けにというか……この教会、あんまり良くないというか、街の評判聞いて……知らなかったとはいえここに連れてきたのは私だから……」
アールの言葉に女性は気まずそうに答えながら檻に手をかけたその時、再びドアが開いた。
今度は服装からして神父と思われるが、百八十ぐらいと思われる長身にしっかりとした体格の筋肉質な男性はまだ十五歳の双子には恐怖の対象でしかない。
顔は整っているがそこに表情はなく、双子がいる檻とそこにいる女性を見る冷たい目は更に恐怖を強めた。
「ああ、丁度いい時に来た。ねえ、この檻の鍵持ってない?」
「この子供達を売りに行くのか?」
「あー、まあ、そんな感じ」
「そうか……この鍵がそうだ」
修道女に変装しているからか神父は疑う様子もなく小さな鍵を取り出し、女性は鍵を受け取る為に近づき手を伸ばした。
しかしその瞬間、神父は女性の手首を掴み引き寄せると同時に腹を思い切り殴りそのまま蹴飛ばした。
女性は壁まで飛ばされぶつかると同時に血を吐き、そのまま床に手をついた。
「がっ……ゲホッ」
「っシスター!!」
今も双子はこの女性の名前を知らない。
なので咄嵯に『シスター』と呼び少しでも近づこうと必死に檻から手を出して叫び続けた。
「何……何で、殴られんの……」
シスターはそう言いながら何とか立ち上がろうとして檻を掴んだがくにゃりと曲がってしまい、支えを失いまた床に手をついた。
「え……」
双子は驚き思わず檻から手を離しマジマジと見つめ、神父は追い打ちをかけようとしていたのを止めて信じられないといった顔でシスターを見ている。
「お前……」
神父が何か言いかけた時、またドアが開き今度はアリスを筆頭に修道女達が銃やら武器を構えながら入ってきた。
「私の神聖な仕事場を荒らすとは……この者を始末しなさい!」
アリスのかけ声と共に銃声や悲鳴が響き双子は思わず目を閉じて耳を塞ぐとその場にギュッと縮こまった。
「ねえ、ちょっと。聞こえてる?」
銃声と悲鳴の合間にシスターの声が聞こえ双子はうっすらと目を開けた。
カモフラージュのつもりなのか頭に被っていたベールの部分は取り外している。
てっきりシスターを狙っているのかと思われたが、よく見るとアリス達は神父と戦っている。
その神父も仲間がいるらしく、アリス達に向かって銃を撃っている修道女や修道士もいた。
「ねえって」
「あ、はい」
「教会の外まで連れていこうと思ったけど、もう出来なくなったから。檻からは出すから後は自分達で逃げて」
そう言ってシスターは双子のいる檻に手をかけ、先程と同じようにクニャリと曲げ双子が余裕で出られる程広げた。
見間違いではなかったと驚く双子には見向きもせずシスターは後ろの壁を思い切り殴り大きな穴を開けると、そのまま壁の外へと飛び降りてしまった。
「シスター!!」
双子は周りの状況も忘れて壁へ駆け寄るがすぐそばに大きな木が生えており、シスターはその木に飛び移って下に降りたのが分かった。シスターの真似をしようにも二階から飛び降りるのはもちろん、木登りをしたこともない人間にとってどんなに近くにあっても木に飛び移るのは怖い。
しかし迷っている時間はない。
「アール、僕が先に行く。そしたら僕の後に飛び移って。大丈夫、なるべく補助はするから」
「エル……うん」
「子供を逃がすな! 捕らえろ!!」
アリスの怒りの声に押されるようにエルが木に飛び移り、アールも飛び移るとほとんど落ちる勢いで木から降りシスターの後を追った。
シスターの姿は見えなかったが時々地面に血が落ちており、それを追いかけていくと一際大きな木にたどり着きその幹には血の手形がべっとりとついている。
「シスター?」
周りに血が落ちていなかったのでここにいるとアールは確信して木に向かって呼びかけるも返事はない。
「そこにさっきの女がいるのか?」
後ろから声をかけられ勢いよく振り返るとそこには先程の神父が立っていた。
「い、いません! ここにいるのは僕達だけです!」
「今普通にシスターと呼んでいただろう」
「そ、それは……」
何とかごまかそうとしていると上からボタッと何か大きな黒い塊が落ちてきた。
塊と思ったのはシスターで、右手で腹を庇いながらも神父には渡さないという意思表示なのか双子が前に出ないようになのか左腕を伸ばしている。
「シスター!!」
「お前、この子達を教会に連れ戻しに来たの?」
ゼエハアと荒い息をし、立つのも辛いのか片膝をついたがそれでも神父を威嚇するように睨みつけている。
「そういうお前こそ、子供達を売ろうとしていたんじゃないのか?」
「してない。子供達を売ろうとしているのは、そっちでしょ」
「……その格好、まさか変装なのか?」
「変装?」
「……俺はあの教会の人間じゃない。この服は教会に入るのに都合がいいから着ているだけだ。お前もそうなのか?」
変装の意味が分からなかったらしいシスターに神父が分かりやすく説明を始めた。
その様子に双子はこの神父が敵ではなく、シスターと同じく助けに来たのだと理解した。
「シスター! この人敵じゃないです、シスターと同じで僕達のこと助けに来てくれたんです!」
「……ああ、じゃあ……もう、後はそっちと……一緒に、行って……」
そう言うとシスターは地面にペシャリとうつ伏せになり、動かなくなった。
「シスター!!」
「気絶したみたいだな。……お前達、帰る家はあるのか?」
倒れたシスターの首に手を当て脈を確認した神父がそう尋ねてきた。
双子は揃って首を振ると、神父は何故かやはりといったように頷く。
「まあ、お前達みたいなのを売る家は大体想像つく。丁度いい、俺達の屋敷に来るか? このまま放っておいてもまた同じ繰り返しになるだろうからな」
「いいんですか!?」
「これも何かの縁だろう。俺は構わん」
「あ、あの。シスターもお願いできますか? 助けてくれた人をこのままにしておけません」
「勿論。この女が倒れたのはこちらも多少の責任があるからな、怪我の手当てをするぐらいなら問題ない」
そういうと神父はシスターの脇下と膝に手を入れ持ち上げると歩き出し、双子も一緒に歩き出した。
「あの、神父様の家ってどこにあるんですか?」
「ここから大分離れた街だ。カーニースに馬車があるからそこまで歩くがいけるか?」
「はい!」
神父は見た目は怖いが意外と話しやすく、木から降りる時にできた擦り傷の手当もしてくれて、馬車が街に着く頃には双子はすっかり神父に懐いていた。
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