第15話 NEXT PROLOGUE


どの国にも属さず、かといって央でも零ノ国でもない。ここはいわば未知の領域。

その場所を知る限られた者たちは、その地を『ヌルポイント』と呼ぶ。


「・・・りっくん」


その地にある一室で、晴乃智真夏は泣いていた。


何もない殺風景な部屋。体育座りの要領で、立てた両膝に顔を埋めるように座る真夏の前には、モニターらしき物が設置されていた。

画面は真っ暗。どうやら、今は何も映っていないようだ。


「・・・会いたいよ」


徐に顔を上げ、部屋に取り付けられた小窓に目を向ける真夏。

地上なら空が見えそうな高い位置にある窓だが、映る景色は一言で表すなら異様。


窓の向こうには、借り物の太陽と月が同時に浮かんでいた。




───同じく『ヌルポイント』の一所。


何かを観測するように鋭い顔つきをしていた男が、不意に頬を緩めた。

どうやら、何かしらの現象に期待通りの結果が得られたらしい。


「どうですか?中々の迫力でしょう」


右目に片眼鏡を掛けた男。カプリコーンは、隣に立つ男に問いかけた。


「神の使い魔、だったか。なるほど、どうやら名前負けはしていないようだ」


その男。墨桜京夜は、淡白な口調で答えた。


「どうやら上手くいったみたいですね」


と、そこに左目に片眼鏡を掛けた男が合流した。アリエスである。

彼の表情を眺め、カプリコーンが口を開いた。


「何か良いことでもありましたか?」

「ええ、予想外の収穫がありましてね」


アリエスは浮ついた表情で歩を進め、カプリコーンと自分とで京夜を挟むように陣取った。


お互いの顔が辛うじて認識できる薄暗がり。

どこに存在するのかもよく判らないその場所に、肉食獣の唸り声のような音が響く。


まるで洞窟の中にいるように、その音は四方八方から聞こえてくる。


同時に、ガチャガチャと固定された鎖を乱暴に引っ張ったかのような金属音が響いた。

じゅるじゅると涎を連想する音も聞こえてくる。


「活きがいいですね。これは、私たちの出る幕は無いのでは?」

「十二分にあり得る話ですね」


暗がりに、二種の片眼鏡が鏡合わせで光った。


「陸獣、か・・・」


視線を動かし、京夜が呟く。


三人を囲む闇の中には、ギロリと睨む、怪しい光を纏った幾つかの眼が。

不規則に、それでいて規則的に浮かび上がっていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

TEENAGE STRUGGLE 其ノ肆 にわか @niwakawin

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ