第14話 VALE TUDO ROUND3



「大変お待たせしました!これより、決勝戦を始めます!!」


実況者ハトの声に、観客席から今日一番の歓声があがる。

休憩時間を挟み、今闘いが再開しようとしていた。


「図らずも、面白いカードになりましたね」

「ええ。楽しみです」


観客席後列に腰を下ろすマテナとノーヤも、熱い視線を舞台上に注いでいる。

休憩時間中に着替えたのだろう。マテナも架純と同様、衣装は元に戻っていた。


「架純さんも軒坂も戻らんな。やはり密会を・・」


その横でポセイドゥンはきょろきょろと辺りを見回していた。


「それでは早速、ここまで勝ち残った選手に登場して貰いましょう!」


ハトの合図に合わせ、円形の舞台に二本の橋が架かる。

方角は、北と東。それぞれの橋の奥には、うっすらと剣闘士の姿が見えた。


「北の剣闘士『変幻自在の残火』。東の剣闘士『地獄の番犬』。入場です!!」


堂々とした足取りで、二組のペアが中央の舞台に向かう。


「平吉さんが気になるけど、今は試合に集中だな」

「ああ。ここまできたんだ。どうせなら優勝を目指そう」


北からは李空とセイが。


「ハナから全力でいく」

「さあ、地獄を見せようか」


東からはみちるとハテスが。


今、舞台上で相対し、


「それでは、決勝戦。スタートです!!」


開戦のゴングが鳴った。



円形の舞台上で、二組の剣闘士が向かい合う。

貯めなおす時間は無いと判断したのか、舞台をぐるりと囲む堀の水は乾いたままだ。


「この試合。俺たちは、長引かせるつもりはない」


先に動きを見せたのは『地獄の番犬』。ハテスとみちるであった。


ゆったりとした足取りで、二人は舞台中央へと向かう。

まるで飼い主と飼い犬のように、ハテスの後ろにみちるが付き従う構図だ。


「3分だ。この試合は、どう転んでも3分でケリがつく」


ハテスは言い放つと、バイデントを舞台の中心に刺した。


「「・・・・」」


一体何が起こるのか、と身構える李空とセイであったが、特に変化は見られない。

ハテスは地面に突き刺さったバイデントを両手で握ったまま、堂々と不動の構えをとった。


決して臨戦態勢には見えないハテス。そんな主人を守るようにして、みちるがハテスの前に躍り出る。


「二人まとめてが相手だ」


みちるは「みちる」を呼び出した。

子どもらしい顔が、どす黒い影に呑み込まれていく。


両手の人間は嵌めたまま。

どうやら、「ある」と「える」は留守番のようだ。


人間と同じ二足歩行で。「みちる」は電光石火のスピードで駆けた。


「俺か!」


その標的となった李空は慌てて才を発動。そうして右手に握られたが、すぐそこに迫った「みちる」の牙を受け止める。

そのまま力を込めると、「みちる」は一旦後退した。


「これは・・」


改めて、手中に握られた刀をまじまじと見る。

その形状はセイの『残雪』とよく似ていた。いや、ほぼ同じだと言っていい。ほんの一回り李空が握る刀の方が小さい気もするが、傍目から見れば全く同じモノであった。


「グルルル!」

「くっ・・」


改めて勢いをつけた「みちる」が、李空に襲いかかる。

今一度刀で応戦する李空であったが、「みちる」の凶悪さは並大抵のものではない。セイほど刀の心得があるわけでもない李空は苦戦を強いられた。


「透灰李空。スイッチだ」

「おう、託した」


そこにセイが応援に駆けつけた。

差し出されたセイの左手に李空が右手を打ち付ける。パチンと乾いた音がして、李空とセイは立ち位置を変えた。


達人の如く滑らかな太刀筋で、セイの『残雪』が、次々と遅いかかる「みちる」の牙を上手に受け流す。


「あっちは大丈夫そうだな」


セイと「みちる」の攻防を眺め。李空は左手に握る刀を右手に持ち替えると、狙いをハテスに絞った。

ハテスは今も不動の構えを取っており、不意打ちには到底対応できないと思われた。


「させるか」


李空の動きを察知したのだろう。セイの元を素早く離れた「みちる」が、ハテスに迫った李空の刀を受け止める。


「逃げられると思うな」


セイの『残雪』が「みちる」の首元へと一直線に伸びる。

そのことを予期していたのか。「みちる」は迫る刀身の方角を一瞥もせず、屈んで躱す。そのまま低い姿勢で踵を返し、セイに迫った。


それは見事なカウンターと言える攻撃であった。『残雪』は既に伸びた状態であるため、懐に入られるとセイの方は分が悪いのだ。


「危険を察したか。ハナが効くようだな」


しかし、「みちる」の攻撃は不発に終わった。

それどころか、セイに近づくことすらできなかった。


というのも、『残雪』を握る手とは逆の手。セイの左手からは、もう一つの刀が伸びていたのだ。


セイの左手に握られた刀。それは、李空が才で生み出したモノだった。

『残雪』とよく似た刀であるが、性質はまるで逆。その刀はという特徴を持っていた。


「あの時か・・・」


何かに気づいたように「みちる」が呟く。


そう、それは李空とセイが「みちる」の相手をスイッチした時。

李空は右手に握る刀を掌サイズまで縮め、セイに渡していたのだ。


その後で左手に新しい刀を新たに生み出し、あたかも何のやりとりもなかったように見せかけたのだ。


「『残雪』とは逆の性質か。そうだな。『雪解』という名前はどうだ?」


種明かしが終わったところで、セイが両手の刀を同じ長さにして握った。

どちらもこの長さが基準であるが、『残雪』はここから伸び、『雪解』はここから縮むことができる。


「いいんじゃないか。可愛がってやってくれ」

「ああ。言われなくてもそうするつもりだ」


李空の言葉に頷き、セイは体の前で『残雪』と『雪解』を交差させた。

初めてとは思えない、様になった二刀流。そのままの体勢で「みちる」の方に向かっていく。


「・・・」


しかし、「みちる」は動かない。

何かを企んでいるのかと睨んだセイであるが、どうやらそうではないらしい。理由は単純、時間切れ。その証拠に、みちるの顔を覆う影がゆっくりと引いていた。


「っ!」

「・・ふう。間に合ったようだな」


倒れかけたみちるの身体を颯爽とやってきたハテスが抱え、そのまま大きく飛び退く。

すぐそこまで迫っていたセイの二本の刀は、虚しく空を切った。


「さて、全ての準備は整った。こちらも種明かしといこうか」


再び立ち位置を舞台中央に戻したハテスが口を開く。

バイデントは依然そこに突き刺さったままだ。


ハテスの身体から溢れ出る自信のオーラに、李空とセイは思わず動きを止めてしまう。


「なんだこれは!」


突如起きた明確な変化に、李空が驚きの声を漏らす。

というのも、自らが立つ舞台に、不思議な幾何学模様が浮かび上がったのだ。


左右で鏡合わせのようになった、円形の舞台を大胆に使用した魔法陣。複雑な構成で描かれたその線は、墨で書かれたように黒く、太い。

如何にもな演出に、セイも訝しんでいる様子だ。


「まずは影の主役の紹介からだな」


そう言うと、ハテスは指笛を鳴らした。


その音に合わせ、新たに舞台上に浮かび上がる、二つの影。

その正体を「ある」と「える」は、第二試合の時のまま人形を被った四足姿で、口にはそれぞれ『筆』を咥えていた。それから、頭部には威圧感のある『兜』が嵌められている。


「・・今回、僕は端からあるとあるを放っていた。両手の人形はカムフラージュというわけ」


ハテスに肩を借りて立つみちるが言葉を吐く。


そう、「ある」と「える」は試合開始時点で既にみちるの元を離れていたのだ。みちるの両手に嵌められていたのは替えの人形。中には誰もいなかったわけだ。


仕事を終え、姿を現した「ある」と「える」は、咥えていた『筆』を吐き捨て、ハテスからみちるの体を預かると、そのまま場外となる堀の方へと向かった。


「筆は『戯れ筆』といって、特殊な魔法陣を描くために必要なアイテム。兜は『隠れ兜』といって、文字通り姿を秘匿するモノだ」


みちる達を見送り、一通り説明も終えたハテスは、今一度突き刺さったままのバイデントを握り直した。


「さて、これで魔法陣は完成したわけだが、召喚にはもう一つ条件がある」


ハテスはバイデントを握る手に力を込めると、そのまま一気に引き抜いた。

それは一部の床も道連れとし、舞台の中心部分が円状にくり抜かれた。


さながらドーナツのような形状となった舞台。その穴の部分からは、視界を妨げるほどの蒸気が沸いていた。


「『冥府の扉』を開くための条件。それは、死を感じること、だ」


ハテスは淡々と告げると、自ら穴の中に身を投じた。


「・・どうなってるんだ」

「・・なにがなんだか」


恐る恐る上から覗き込み、李空とセイが揃って戸惑いの声を漏らす。


穴の上からでも、ただならぬ熱気が感じられる穴底。

そこにあったのは、『地獄の窯』であった。


黒く大きな窯の中には、ぐつぐつと煮えたぎったマグマがあり、その温度が命の危険と隣り合わせであることは想像がついた。


ハテスは、『冥府の扉』を完成させるための条件「死を感じる」をクリアするため、この『地獄の窯』を利用することを思いついた。

その背景には、第二試合でのポセイドゥンの行動があった。


ハテスがポセイドゥンを地下に落とせば、彼は地下にある水を利用して這い上がってきた。しかし、その時には、ハテスとポセイドゥンの技の応酬によって舞台を囲む堀の水は乾き切っていた。


にも関わらず、舞台の地下には水が通っていた。このことから、舞台の真下には貯水があるのではないか、とハテスは踏んだのだ。

その仮説は見事合っており、ハテスは『地獄の窯』を作り出すことに成功した。彼の才では、自分の領域内である地下の水の温度を上げることはできても、ゼロから水を生成することはできないのだった。


さて、ここまで大掛かりで複雑な魔法陣を展開し、厳しい条件を満たしてまで、ハテスが発動しようとしている技。『冥府の扉』とはいかなるモノなのか。


その影が今、湧き出す蒸気の中に蜃気楼のように浮かび上がった。


舞台に浮かぶ巨大な扉。その外観は、怪物の骨で組み立てたような、なんとも形容し難い不気味な雰囲気を纏ったモノであった。

ハテスの感情に呼応するように、両開きの戸がゆっくりと開かれていく。


そこから無数の手が伸びてくる。白く、細い手だ。

同時に声が聞こえてくる。憎みや恨みといった負の感情だけが伝わってくる、未知の言語による怨嗟の声だ。


「この声、何処かで聞いたような・・」

「・・あれだ。肆ノ国に来た時だ」


異様な光景に冷や汗を浮かべながら、李空とセイが短く言葉を交わす。

肆ノ国に入国した際に聞こえてきた例の声。それと今回の声は酷似していた。


「どうやら上手くいったようだな」


穴の底。『地獄の窯』からハテスの声が届く。


「扉の先が何処なのか、詳しいことは俺にも判らない。唯一判明しているのは、大陸の何処かと繋がっている、ということだけだ」


淡々と言葉を紡ぐハテスであるが、言葉の端端には苦しみが滲み出ていた。

ハテスが死を感じることで、扉が段々と開かれているのだ。


さて、未知の場所に繋がる扉を前に、『変幻自在の残火』こと李空とセイは、如何様な動きを見せるのか。

会場の誰もが期待の目を向け、当の本人たちは目で会話をする。


「ほう。これは面白い」


一体何が起こったのか。会場の誰しもの思考が一瞬停止した。


突如舞台上に姿を見せた、一人の男。

左目に片眼鏡を掛けたその男は、懐から黒い杖を抜き取ると、『冥府の扉』に向かって突きつけた。


と、次の瞬間。

あれほど強い存在感を放っていた扉は、ポンっと跡形もなく消え去った。


「・・・お前は」


李空の表情が、呆然から険しいものへと変化する。


零ノ国では真夏を攫い、壱ノ国教会にも姿を見せた、ジャヌアリ=カプリコーン。

彼とは逆の目に片眼鏡を掛けたその男は、『TEENAGE STRUGGLE』決勝後にセウズを意識不明に追いやった、あの男に間違いなかった。


「我が将の仇。ここで討たせてもらいます!」


異常事態をいち早く察知し、観客席から舞台に飛び込んだマテナが、ランスを男に突きつける。


「まあ、そう慌てないで。今ここで闘うつもりはありませんから」


男が黒い杖をコツンと当てると、ランスはポンっと綺麗さっぱり消えた。

マテナは驚きに目を見開きつつ、サッと後ろに飛び退いて距離をとった。


その裏では、同じく観客席から舞台に飛び込んだポセイドゥンが、『地獄の窯』の中身を丸々持ち上げ、ハテスを救出していた。


「異常はないか」

「・・ああ。まだ生きている」


グツグツと煮えたぎっていたマグマはすっかり冷めており、水となった液体ごとハテスが持ち上げられて浮かんでいる状態だ。


「ある」と「える」に背負われて、みちるも舞台の端から行く末を見守る。


「いやあ、試合の邪魔をするつもりは無かったんですけどね。あれ程のモノを見せられては、居ても立っても居られなくなりまして・・」


六人の剣闘士を前にして、片眼鏡の男が口を開く。


「おっと、自己紹介がまだでしたね。私は肆ノ国『知の王』。エイプリル=アリエスといいます」


危機感や緊張を一切感じさせない口調で、アリエスは恭しく頭を下げた。


舞台中央のアリエスを睨みながらも、剣闘士たちは動けないでいた。

それは、彼の実力が全くの未知数であったからだ。


ハテスの『冥府の扉』やマテナのランスを一瞬で消し去り、以前は絶対王者セウズの意識をも奪った、アリエスの黒い杖。

有無を言わさないその効力は、歴戦の猛者たちの足を止めるのに十ニ分であった。


「目的は既に果たしましたが、そうですね。試合の邪魔をしたお詫びに面白い話でもしましょうか」


アリエスの視線がポセイドゥンとハテスに向けられる。


「あなた達二人でしたね。9年ほど前にヴァルゴの神殿から大量の物を撤去していたのは。断捨離は結構ですが、石版を撤去されるのはこちらとしては都合が悪かった。そこで私はヴァルゴに依頼し、石版を別の場所に移してもらっていたのです。貴方達がそれぞれ相手が撤去したのだろうと思い込んでくれたのは嬉しい誤算でした」


今度は六人の剣闘士全員に視線を向けて言う。


「そして今回。我々は目的達成の為、石版を優勝賞品とした大会をこうして開いたわけです。そうすれば貴方達が参加することは明白でしたからね」


アリエスは満足げに頷くと、こう告げた。


「優勝は決しませんでしたが、賞品は渡しておきます。約束は守る為にありますからね」


アリエスが頭上を指差す。そこには石版が浮いており、ゆっくりと高度を下げている光景があった。


「ああ、それと。貴方達の将が目を覚ましたようですよ」

「本当か!?」


アリエスの言葉に反応するポセイドゥンだったが、当の本人はいつの間にか姿を消していた。


「・・・・」


無言のままセイが『残雪』を振り、舞台中央の穴の上に透明の残像ができあがる。

石版はその上にゆっくりと着陸した。


「全てはあいつの掌の上だったわけか」

「後味の悪い幕引きだな」


ポセイドゥンとハテスが言葉を交わす。

ハテスを浮かべていた水はもうなく、今は自力で立っている。


「最後の言葉は本当だろうか?」

「さあな。後でユノに確認してみよう」


セウズの容体を気にする二人を横目に、李空は透明の残像の上に乗り、石版に近づいていた。

降りかかった怒涛の展開に、情報を整理する時間が欲しいところだが、今までの経験上、いちはやく石版の情報を確保しておくべきだと判断しての行動だった。


平吉がいない今、自分がしっかりしなければ、という思いも働いたと推測できる。


石版の目前まで来ると、李空は携帯電話を取り出し、慣れた手つきで操作した後、耳に当てた。


「七菜。聞こえるか?」

「はい。くうにいさま」

「また突然で悪いが、翻訳を頼めるか」

「わかりました。詳しいことは後で聞くことにします」


例の如くカチューシャを装着する李空。

側から見ればシュールな光景であるが、笑いが起きることはなかった。


それよりも衝撃的な出来事の数々が、可笑しさを暈しているためと思われる。


「『大穴ハ眼。開カレシ瞳ニ命ガ浮カビシ刻、真ノ闘イハ始マルダロウ』と書いてあります」


携帯電話から七菜の声がする。

解読班の方では、今頃美波あたりがメモをとっていることだろう。


「ありがとう。また電話する」


李空は電話を切ると、視線をセイとみちるに向けた。


「今までの流れだと、もう時期揺れがくると思う。二人とも首飾は持ってるか?」

「ああ。つけたままだ」

「・・・うん」


セイが首元から首飾を取り出す。

みちるも同じようにしたが、その表情はどこか優れない。


「よし。それじゃあ、平吉さんと架純さんに連絡を取ろう」


続けて李空が電話を掛けようとすると、みちるが意を決したように口を開いた。


「李空。僕はここに残ることにするよ」


両手の人形を介さず、自分の声で語るみちる。

その声には、前向きな意思が宿っているように感じられた。


「ハテスと一緒に闘ってみて、自分の可能性が広がるのを感じた。ここに残ることで、もっと強くなれる気がするんだ」


その目がハテスを捕らえると、歓迎の意を示すように深く頷いた。

師匠となるハテスの意向を確認したみちるは、首飾を外し、李空に近づいた。


「平吉と架純によろしく伝えておいて」

「わかった」


みちるの決断を否定する理由などなく、李空は首飾を受け取った。


丁度その時。いつもの揺れが始まった。




───『オーバーフローホール』跡地。


「このタイミングで始まりよったか」


低い声色で、平吉が呟く。


メテスの話では、以前は大穴が空いていたという場所で、平吉と架純とメテスの3人を揺れが襲ったのだ。


「あっちの方はどないなったんやろうか?」


胸元から首飾を引っ張り出しながら、架純が疑問を呈する。

その顔に焦りはない。今までの経験から、そろそろ揺れが起きると予期していたのだろう。


「さあな。けど、こうなったら抵う術はあらへん。あいつらを信じるしかないな」


同じく首飾を握りながら、平吉が答える。


至って冷静な二人を前にしているからか、メテスにも取り乱した様子はなかった。揺れに耐えるため、腰を低くしている。


「色々とお世話になったのに、力になれずすみませんでした」


申し訳なさそうに目を伏せ、メテスが言う。

あったはずの『オーバーフローホール』が見つからず、存在を証明できなかったことを後ろめたく感じているのだろう。


メテスの言葉を受け、平吉は爽やかな笑みを浮かべて言った。


「そんなことあらへん。ゼロも立派な情報や」




───切り替わって、闘技場。


みちるが調査班を抜けることになり、現在首飾は李空とセイが持っている状況だ。李空は自分の分ともう一つ、計二つ持っていることになる。


「その首飾があれば回転に抗うことができる、という話だったな」


揺れが襲う中、ポセイドゥンが李空に問う。

今まで通りならば、そろそろ大地の回転が始まるはずだ。


「はい。その性質を活かして、調査班は順々に各国を調査してきました」

「ここに3つあるということは、一人定員が余っているというわけだな」

「そうなりますね」


李空の答えに満足したように頷くと、ポセイドゥンは呆然と立っていたマテナの背中を押した。


「マテナ。お前も行ってこい」

「でも・・・」


振り返り、マテナが戸惑いの声を漏らす。


「肆ノ国代表として『サイコロ』には俺が顔を出す。国にはハテスが居るから心配はいらん。あの男の言葉が真実なら、セウズも復活したそうだからな」


淀みなく沸いてくるポセイドゥンの言葉に、マテナは覚悟を決めた顔つきになった。


「わかりました」


力強く頷き、マテナが李空とセイの目を真っ直ぐに見据える。


「私もお供させていただいて良いですか」

「勿論。平吉さん達も歓迎すると思います」

「俺も途中参加した身だ。異論はない」


李空が首飾を一つマテナに手渡す。

丁度その時。揺れが大きくなり、回転が始まった。


「お荷物にならないように頑張れよ!」

「犬飼みちるは責任を持って俺たちが預かる」


ポセイドゥンとハテスが、言葉を送る。

みちるも残った力を振り絞り、ゆっくりと手を振っていた。


こうして調査班は、李空とセイとマテナ、平吉と架純の二手に分かれたまま、肆ノ国を後にしたのだった。

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