第10話 カラオケ

カラオケで

流行りの歌がBGMで流れる

俺たちは歌いに来たわけではないから

飲み物だけ頼んで

話をすることにした


すぐに

店員さんがゼロ・コーラとホットウーロンを持ってきてくれた

部屋のドアが閉まる音がして

俺はホットウーロンを片瀬に渡した


「ありがとう」


そう言って

片瀬は両手でカップを持った


熱くないのかな?

真夏に熱い飲み物なんて口にしたら

汗だくになるけどな・・・

そう言えば

片瀬って

あの暑さの中、汗一つかいていなかったな


「片瀬って暑くないの?」


片瀬はこちらを見て


「暑いよ・・・夏だし

だけど

冷房は苦手

冷え性なの」


そう言って手を出した

触っていいってこと?

俺がためらっていると


「今、ウーロン茶持ってたから

触っても分からないか」


そう言って手をひっこめた


どうして早く手を触らなかったんだ

・・・残念に思う・・・


「家で、なんか嫌な事でもあったの?」


俺は出来るだけ優しく言う


「・・・ない」


片瀬は言葉数少なめに答える


「じゃ、何で家出?」


片瀬はウーロン茶を一口飲んで話す


「好きな人の家に行こうと思って

だから

家を出てきた」


山田の家に行くのかな? 


「相手は?どんな人?」


山田が片瀬を呼んだのかな?


「山田先生」


やっぱり


「付き合ってるの?」


片瀬は微妙な顔をする


「分からない

だから

私は本気だってことを示したくて」


分からないって・・・どういうこと?


「示すってさ

山田先生は知ってるの?

荷物もって家に来ること」


片瀬は首を横に振る


「俺さ、片瀬と山田先生の関係が分からないからさ

的外れかもしれないけど

ちゃんと言った方がいいと思うよ

”今から荷物もって家に行く”

ってさ・・・

じゃなきゃ驚くと思うし・・・」


俺の頭の中には

ファミレスで見た

キレッキレの女の人が浮かんでいた


結婚を考えるほどの人なら

もしかしたら一緒に住んでいるかもしれないし

そうでなくても

ハチアワセでもしたら

あの性格だから

完全に修羅場だよな


ゼロ・コーラのグラスには水滴がたくさんついている

グラスを持ち上げたら

ぽたりとそれが落ちた


氷は既に解けてしまって

薄くなっていた




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