第4話 目撃

バイト中

頭の中は

今日、見たものが巡っていた


「ねぇ、聞いてるの?」


彼女は付き合い始めてから

ほぼ毎回

同じシフトで

小さなレストランだし

街はずれで

お客さんが少ないから

バイト中はデートのような雰囲気


いつもなら

こんな時にまで

片瀬を引っ張ることは無いのに

片瀬で頭はいっぱいなのに

彼女が甘えた声で話しかけてくるから


もう頭はぐしゃぐしゃだよ!!


「正吾

今日、なんか変だね

そんな返事しかできない正吾なんて嫌い」


拗ねている


いつもなら

それも可愛いと思うのだけど

今日は煩わしい


それが顔に出ていたのかな?


彼女はそこから

本当に怒ってしまって

口をきいてくれなくなった


だけど

今の俺にはそれはそれで

静かになって丁度良かった


時間が来て

上がり作業をしていたら

お客さんが来た


入れ替わりにシフトに入った先輩が

がっかりした顔でため息をつく


俺はそれを横目で見ながら

黙々と作業をする


彼女は既に仕事を終えたようで


「お疲れさまでした」


早々と更衣室へ入っていった


「オーダー入りまーす」


ウェイトレスがオーダーを通す

面倒そうに調理を始めるスタッフは伝票を見て


「また、あのお客?」


ウェイトレスに聞く

ウェイトレスは苦笑いで頷く


「常連さんですか?」


俺がそう聞くと


「お前、知らないっけ?

そっか

あのお客、遅い時間しか来ないもんな」


「変なんですか?」


「最近、来るんだよ

変ではないんだけどな

このくらいの時間から

オーダーストップまでいるんだよ

ドリンクバーだけで

売り上げにならんくせに

ずっといて

あっちが汚い

こっちが汚い

って駄目だしすんの・・・

男の方はとくに害はないんだけどね

女の方がね・・・厄介なの」


そう言いながら眉間にしわを寄せる


「嫌だな・・・そういうお客さん」


ウェイトレスは

困った顔で


「八つ当たりっぽいのよね

いつも揉めてるから」


「どういう関係ですか?」


「結婚前のカップルかな?

いつも結構式の情報誌を2・3冊持ってきて

テーブル一杯に広げて話してるから」


「あんなヒスな女

よく結婚相手に選ぼうと思うよな・・・」


先輩の表情を見て

少し興味を持った俺は

キッチンの入り口まで行き

作業をするふりをしてその二人を見に行った


”えっ?”


心の中が、ざわついた


そこに座っていたのは

山田と同年代の女性だった


山田は彼女の方をニコニコしながら眺めるように見つめ

彼女は神経質そうな手先で雑誌をペラペラめくった


俺はまとまらない頭で

その二人を見ていた


「知り合いだった?」


ウェイトレスは俺に小声で話しかけてくる


「いや、知らないです」


訳の分からない嘘をつき

俺は青ざめた顔で


「お疲れさまでした」


先輩とウェイトレスに挨拶をしてあがった

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