第14話 ミサキ先生

 ミサキはカヤに銃を向けたまま、エレベーターの開ボタンを押し続けた。


「2人とも降りて」


 ミサキもまた、カヤや代表者2人と同じような、光の加減で七色に発色する白い衣をまとっていた。 

 耕太とカヤはミサキに促されるがまま、耕太の部屋に入った。


 再びリビングに戻った耕太とカヤは、銃を構えるミサキの前に立った。

 耕太は首を傾げてカヤに訊いた。


「ミ、ミサキ先生って?」

「……小学校の時の、担任の先生」


 ハッとする耕太は、眉をひそめて言った。


「ど、どおゆうこと?」

「……わからない。いったいどうなってるの」


 ミサキは銃を構えたまま、2人の疑問に笑顔で答えた。


「私は代表者2人のお手伝いをしてるの」


 カヤの顔が険しくなった。


「カヤさんも分かってたでしょ?」


 動揺する耕太の隣で、カヤはミサキを睨みつけて訊いた。


「代表者2人とグルなの?」


 ミサキは笑顔で答えた。


「グルなんて、お行儀が悪いですね。先生はあくまでも教育者よ。生徒が間違った事をしようとしていたら当然指導する」

「私はもう学校は卒業している」

「そうね、もう立派な大人ね。でもね、カヤさん、私の今の生徒が助けを求めてるの」

「……今の?」

「代表者2人のご子息よ」

「えっ……」


 カヤは思わず動揺した。


「カヤさん、代表者2人はどこ?」


 カヤは我に返り、ソファの後ろを指さした。

 そこにはソファの陰から覗くアミの足がある。

 ミサキはカヤに銃を向けたまま、アミの死体を確認した。

 腹部から血を流したアミが仰向けになっている。


「なるほど、旦那様は?」

「地下の駐車場よ」

「そう」

 

 なぜか素っ気ないミサキの態度に、カヤは眉をひそめた。


「……で? どうなるの?」


 その耕太の言葉で、ミサキは銃を下し、話し始めた。


「タイムリープシステムはカヤさんありきでしか起動しないでしょ?」

「そうよ、第三者に悪用されない様に叔父がそうプログラムした」

「でも、一度起動したらシステムにアクセスできちゃう」

「できないわ。私がタイムリープした瞬間、理論上タイムリープシステムは消滅する」

「でも、ほら、こうして私も、代表者2人も」

「それは私がもたついたせいでシステムの消滅にエラーが出て」

「そうね、カヤさん以外の人間が過去に影響を与えてタイムパラドックスが起き始めているから、早く私の存在も消して元の時間に戻らなくちゃね」


 睨み返すカヤに、ミサキは笑顔で続けた。


「カヤさんの叔父さん、クマダさん。彼は天才ね」

「え」

「あんなシステムと装置を作ってしまうなんんて」


 カヤはしばらく考え、何かに気づき、愕然として言った。


「もしかして……先生?」


 目を閉じてすましているミサキに、カヤは続けた。


「あの時、私が部屋に戻った時、叔父は部屋の中で撃たれて死んでいた。私は過去を変え、叔父が死んだ未来を変えようと、すぐにタイムリープした。そして、私がもたついたせいで磁場データが狂い、一瞬、タイムリープシステムにアクセスする時間ができてしまい、私たちの部屋に潜んでいた代表者2人が、タイムリープシステムにアクセスしてしまった」


 耕太はぽかんとし、ミサキは目を閉じたままだった。

 カヤは続ける。


「おかしいと思った。……叔父が、一番警戒していた代表者2人を部屋に入れるわけがない。だけど……先生だったら……入れてしまうかも」


 耕太が何かを察すると、カヤは怒りに震えて言った。


「先生が叔父を殺した」


 思わず鼻で笑うミサキは、言った。


「カヤさんも私の生徒の親御さんを殺したのよね」

「今の世界の代表者2人の時間を消さないとタイムパラドックスが起きてしまうからよ」

「それならカヤさんの時間を消せばいいじゃない」

「私は100年後の世界を変えるために来たの。代表者2人は自分たちの為だけに100年後の世界を維持しようと、私の時間を消しに来た。人類を救うため、代表者2人にもミサキ先生にも消えてもらう」


 カヤは耕太を見て、付け加えた。


「そして申し訳ないけど、あんたにも」


 耕太が静かに頷くと、ミサキは再びカヤに銃を向けた。


「カヤさん」

「……なに」

「カヤさんは子供の頃からそうですね」

「え?」

「子供の頃からずうっと、先生の目ざわりですね」


 カヤの表情が一層険しくなった。


「コータ様を殺そうとしているなら、カヤさんには死んでもらいますね」


 トリガーを引こうとするミサキに、思わず耕太が言った。


「なぜですか?」


 ミサキの手が止まった。


「なぜそんなに、代表者2人の味方をするんですか?」


 しばらく黙ったミサキは、軽く深呼吸をして、言った。


「それはもちろん、代表者2人の計画のためです」

「……計画」

「クマダさんも知っていたであろう、その計画」


 カヤが鋭い目つきになると、ミサキは更に続けた。


「その計画は、コータ様がいなくなったら実現しない」


 耕太は怪訝な顔で言った。


「僕のせいで世界がめちゃくちゃになることと、その計画が関係するの?」


 ミサキは耕太をじっと見つめて言った。


「もちろんです」

「え?」


 ミサキは続けた。


「だって、その計画とは、この先の世界ですから」


 カヤは拳をぎゅっと握った。


「コータ様が掲げる絶望がこの先の世界」


 耕太はじっと聞いている。


「そしてコータ様が掲げる野望もまた、この先の世界」


 耕太とカヤが同時に言う。


「野望?」


 ミサキは続ける。


「絶望しながらも野望を抱く」


 聞き入る耕太とカヤに、ミサキは言う。


「タイムコントロールという野望」







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