第10話 ドッキリ

 パソコンのモニターに次々とコメントがあがる。


『ガス爆発?』

『きのうもめっちゃ光ったけど!?』


 耕太とカヤはソファの後ろで身を隠していた。

 銃を構えたサトウとアミが、カメラに映り込まない様に2人を探す。 

 

「おしまいよ」


 アミはそう言って、しゃがんで銃を構えるカヤに、背後から銃を向けた。

 次の瞬間、耕太がカヤの銃を奪い、その銃口を自分のこめかみに向ける。

 カヤは思わず言った。

 

「えっ」


 そこに来たサトウが、カヤに銃を向けるアミと、自分に銃を向ける耕太を見て言う。


「どおゆう事だ?」


 耕太は自分に銃を向けたまま立ち上がり、カメラの前に立った。


「今、僕がカメラの前で死ねば、希望系ユーチューバーコータは確実に爆バズりして、必ず未来は変わる」


 サトウはその強気な耕太に言う。


「あなたはカヤに騙されています。100年後の世界はまさに理想郷です。あなたのおかげなんです。死ぬ必要なんてありません」


 耕太はサトウを無視し、カヤに言う。


「カヤ、ごめん。きのう、初めて君に出会った時、僕がすぐに死んでいれば……」


 動揺したカヤの目が泳いだ。

 モニターにコメントがあがる。


『なにその近未来的なピストル!?』

『誰としゃべってんの?』

『やっぱきのうからおかしいぞー!!!』


 サトウはカメラに映り込まないようにして耕太に言った。


「だめだ、あなたは死んではいけない」


 目を閉じた耕太が、トリガーを引こうとする。


「待って!」


 そのカヤの声で、耕太は目を開けた。

 アミもその声で耕太の方を向く。

 その瞬間、カヤがアミの銃を奪おうとし、2人はもみ合いになる。

 動揺する耕太。

 サトウが銃でカヤを狙う。

 耕太はこの状況を打破するため、再び自分に向かってトリガーを引こうとする。

 もみ合いながらもその耕太を見て、カヤが叫ぶ。


「だめ!」


 ボムッ


 耕太は、その音の方を見た。


「……えっ」


 カヤの前に、腹から血を流したアミが倒れ込む。

 そして、サトウがカヤに向かってトリガーを引こうとした瞬間だった。


 ボムッ

 

「あー!!!」


 後ろから耕太に足を撃たれたサトウが、その場に倒れた。

 あ然とするカヤ。

 苦しみながらも銃を構えようとするサトウ。


「逃げよう!」


 耕太は咄嗟にカヤの手を掴み、部屋を出た。

 追おうとして立ち上がろうとするサトウだが、その場に崩れる。

 サトウは足の出血部分を手で押さえ、血だらけのアミに脈がない事を確認し、怒りに震える。

 パソコンモニターにコメントがあがった。

 

『なんか凄いこと起こってる!?』

『希望系はどーなった?』

『100年後の人々とやらは?』


 サトウは這いつくばって、それらのコメントを見る。そして、スケッチブックに何やら書き出し、必死でカメラの前に立った。


「はい、という訳で、大成功!」


 軽快に喋りだしたサトウは、カメラに『ドッキリ! 大成功!!』と書かれたスケッチブックを向けた。


『ドッキリかーい!』

『なになに? どーゆーこと?』

『結局どーなるの?』


「もちろん今まで通りCO2爆上げでーす!」


『コータはどこ?』


「コータ様はランボルギーニで爆走です!」


『コータ様?』

『あんただれ??』

『スタッフ?』


「はい! 私はコータ様の絶望を応援するスタッフでーす」


『なんだかよく分からんけど!』

『オレたちも応援してるぜ!』


 フォロワーが増え始め、あっという間に元の数へ戻る。

 それを見て安堵したサトウは、カメラに向かった。


「明日からの絶望系ユーチューバーコータもお楽しみに!」


 サトウはそう言ってカメラに向かって手を振り、生配信を切ると、足の痛みに必死で耐えながらアミの頭を優しく撫でた。


「これで未来が変わることはなくなったよ。カヤを殺して元の時間に戻れば、タイムリープの事実も無くなり、君が死んだ事実も無くなる」


 サトウはアミの頭の布を手にすると、それで足の傷口を縛り、ニヤリとした。


「……ドッキリ、大成功」

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