梅香ss

ある春も終わりに近づいてきた日のこと。

星宮梅香は自室で宿題を姉の冬香に見てもらっていた。


「ねえ、お姉ちゃん。ここなぁに?」

梅香は、国語でわからなかったところを冬香に尋ねる。

「もう、自分でやらないと身につかないわよ」

冬香は口では注意するものの、少しだけなら良いわよね、と本日何度目かわからない自問自答をする。


「ここは教えるけど、残りは自分でやるのよ?」

冬香は嬉しそうな顔を浮かべる。

「はーい。お姉ちゃん大好き!」

梅香は、したり顔で冬香に教わったところをノートに書き写していく。

梅香は本当に、自分へのものの頼み方が上手だと、冬香は常々思っていた。

とはいえ、それをわかった上で梅香の策略に乗ってしまっている自分も自分だがとも思っていた。


「ねえ、お姉ちゃんこれは?」

暫くしてから梅香が見せてきたのは、数学の例題だった。

「その問題、後回しにしない?他の問題を解いている間に説明を考えておくから」

冬香はスマホを開き、静音カメラで梅香に気づかれないよう写真を撮る。

送信先は、深春だ。

そう。

冬香は国・英・理・社は天才的にできるのだが、どう言うわけか数学だけは中学の頃から苦手なのであった。

なので、よく数学に関しては、深春に教えてもらっていた。

深春は、運動・数学は凄まじくセンスがあるのだった。


「はーい」

梅香は、冬香には気づかれない程度に小さく微笑む。

梅香は、冬香が数学が苦手で、深春に聞いて、それを頑張って自分に伝えてくれていることを知っていた。


「ありがと、お姉ちゃん」

梅香は冬香に聞こえないボリュームで小さく呟く。

今度、深春にもお礼を言っておこう。

梅香は、そう思って、頭を悩ませる冬香を横目に、問題に戻った。

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MUSENT(短編ver) 富士蜜柑 @fujimikan

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