藪蛇

赤城ハル

第1話

 夢を見た。

 昔の事件。

 犯人が見つからず未解決になった事件。

 私が疑わられた事件。


「寝覚め悪ぅ」


 私はキッチンでコップに水を注いで一口飲んだ。

 それでも腹の内にある、むかむかしたものは消えなかった。


「どうして今さら」


 もう5年近くも前のこと。


 夢で見たということは、まだ私の中では尾を引っ張っているということなのだろうか。


  ◇ ◇ ◇


 ウチの高校では毎年冬期合宿があった。

 部活とかそういうのではなく、つまらない勉強合宿。


 ホテルで泊まり、勉強は予備校で行われる。

 朝から夜までのつまらない勉強合宿。


 参加者は特進クラスの生徒全員。

 自由参加であるが、参加を拒否すると放課後、教師との面談が執り行われる。


「予定があるのか?」

「……いいえ」


 あると言うと教師は親に連絡を取り、確認する。

 仮に本当にあったとしても教師から遊んで大学進学なんて出来るのかと注意……いや、説教される。

 例え、合格判定でもあっても。


「なら参加しろ。問題はないのだろう? 大学に進学したいなら勉学は当然だろ。な? 甘く考えているならは押せんぞ」


 もはや脅迫でもあった。


 ゆえに冬期合宿は自由参加という名の強制参加合宿である。


 そしてその合宿場で事件が発生した。


  ◇ ◇ ◇


 私は事件のことを人物、場所、市名を変えて小説化。そしてそれをネットに書き込んだ。


 もちろん、それだと犯人が分からずクレームがくる。


 私のSNSに数多くの非難コメントが書き込まれる。


 だが、そんな中、犯人について推理する者がいる。


 でもそのほとんどが『あくろいど』だった。

 それはある名作からきた名前。

 その名作は結局、犯人が告白側のものだったという。

 それで今回も私が犯人ということで『あくろいど』とコメントを残したのだ。


「ちゃんと読めや」


 私はSNSに『犯人を教えて下さい』と書き込んだ。


 そして溜め息を吐き、ノートパソコンを閉じた。


  ◇ ◇ ◇


 事件があったのは高校三年の時だった。


 昼食後、夕方までの授業時間前に生徒の携帯及び貴重品が集められた。


 それら貴重品袋は教室隣のロッカー室に鍵を掛けられて厳重に保管されていた。


 そして17時に授業が終わり、貴重品返却の際にロッカーが破壊され、財布を入れた貴重品袋だけが盗まれていたのが判明。


 窃盗事件として警察が来て犯人探しが始まった。


 ロッカー室は廊下の奥にあり、出入りの際は教師、及び私達から見られることになる。

 もちろん、全員が勉学に集中して廊下を見ていないならば。


 私達はさほど真面目な生徒ではない。授業に参加してもノートを借りるなんて茶飯事のこと。さらに強制ゆえモチベのない生徒は大勢いた。

 だから廊下に誰かが歩いたなら、つい目を追う生徒が一人以上いてもおかしくなかった。


 しかし、誰も不審者を見ていなかった。


 それともう一つ不審な点があった。それは音だ。ロッカーはぼこぼこに扉が破壊されていた。ロッカーは金属製だ。破壊するには音が漏れ出る。それに気付かれずに破壊するなんて無理がある。


 結局、泥棒は捕まらなかった。

 ただ、容疑者はいた。

 途中でトイレ退席した生徒。


 トイレ退席した生徒は三名。

 私とOとH。

 私達は疑わられ持ち物検査を受けた。だが、窃盗品は何一つ現れなかった。


 しかし、しばらくはクラスから容疑者として扱われていた。

 身の潔白が証明されたにも関わらず、犯人が捕まらないため私達は容疑者扱いされ続けた。


  ◇ ◇ ◇


 夜にノートパソコンを立ち上げると数多くのコメントがきていました。1日でこんなにコメントがきたのは初めてです。


 やはり非難のコメントが多かったのですが、その中で気になるものがありました。


『ロッカーは貴重品が盗まれた時に壊されたのでしょうか?』

『トイレ休憩以外で教室を出た人はいませんか? 例えば休憩時間とか?』

『ボコボコとありますがロッカーの扉は具体的にどのようになっていたのですか?』

『合宿に対して強く不満を抱いていた生徒は?』


 コメント主はまるでこの小説がフィクションではなく実際にあったことと考えているのではないだろうか。


 そんな気がしてなりません。


 私は記憶を手繰り、作中では書かなかったことを補足として付け足します。

 舞台、キャラクターの性格、趣味、人間関係についてをより正確に。


 するとどうでしょうか。次々とコメントが投稿されます。

 犯人はSだの。Nだのと。

 そして犯行時刻は授業中ではなかったのだと。


 どんどんコメントは増え、しまいには過去の新聞記事を取り上げられて、実際のことだとバレてしまったのです。


 さらにどこから入手したのかも分からない卒業アルバムまでネットで出てきたのです。


 私は小説を削除しようとしましたが、ここで削除したら私が疑われるのではと思い、踏みとどまりました。


 怖くなって私はノートパソコンを閉じてベッドに向かいました。布団を被り寝ます。


  ◇ ◇ ◇


 翌朝、ネットニュースにて過去の事件がネット住民の中で話題になっていることが取り上げられていました。


 そしてその日の夕方に元クラスメートのSとNが過去の器物損壊および窃盗の件で自首したことをニュース番組で知りました。


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