第3話 ホームレスの水

 おれは橋の下に住んでいる。

 かつては公園の蛇口から水を飲んでいた。

 水道事業民営化により、水道料金が高騰し、公園から蛇口が消えた。

 かつては公衆便所でくそをしていた。

 公衆便所は極端に少なくなり、おれの行動範囲では皆無になった。

 河原で野ぐそをするようになった。川の水でケツを洗う。

 公民館や図書館などの公共施設にはトイレがあるが、有料化した。ほぼ無一文のおれには使えない。

 自動販売機の下でコインを拾うことがあるが、食い物を買うと消える。

 雨水が唯一の使える水だ。バケツをたくさん盗み、雨水を集めて飲んでいる。

 雨が長い間降らないと、地獄の渇きと戦うことになる。川の水を飲みたくなる。実際に飲んだことがあるが、ひどい下痢をしてさらに脱水が進み、死亡寸前まで行った。

 誰も助けてくれなかった。

 奇跡的に雨が降り、おれは上を向いて口を開け、水を飲み、生き延びた。

 政治も行政もホームレスに対して冷淡だ。財政難とやらで、おれたちには金を使いたくないらしい。

 都会では生きていけない。おれは飲める湧き水を求めて山へ行った。

 山の水も水企業が押さえていた。飲用可能な湧き水は鉄条網の中にあった。

 渓流をさかのぼると、コンクリートの高い壁にさえぎられた。

 壁に背を預けて、おれは天を仰いだ。

 疲れた。水が飲みたい。

 雨が降る気配はなかった。

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