日帰りダンジョン――仲間と文章力で危機を乗り切れ!

御剣ひかる

タイトルに偽りあり?

 ウェブの小説を読むのが好きだ。

 それが高じて自分でもちょっと書いてみよっかな、なんて考えて、なんちゃって小説を書き始めて三か月。読むのメインだから書くのはなかなか上達しないし固定読者もいないけどね。まだ短編? 掌編? しか書いたことないし。

 そんなわたしが見つけたあらたな長編小説が「日帰りダンジョン――仲間と文章力で危機を乗り切れ!」だ。

 この小説、今は数が少なくなってきた個人サイトの小説なんだけど、訪問者カウンター見たら今日だけで二百人を超えている。

 SNSとかであんまり話題にならないのは、サイトの管理人さんが広めるのに積極的じゃないみたい。

 日帰りダンジョンっていったら、多分異世界のダンジョンと日常を行き来する、みたいな感じなんだろうけど、なんで危機を乗り切るのが文章力なんだろう、と気になった。

 これがキャッチーな副題ってやつか? 次のタイトルの参考にしよう。

 と、書き手側の感想はおいといて。

 読み始める。

 ある日突然異世界のダンジョンらしきところに迷い込んでいた主人公が、スキルや魔法を使ってダンジョンの出口を目指す、って感じの一人称小説だ。

 ……うん? 日帰りっていうから物語の主人公が日常に帰ってくる系かと思ってたのに、ずっとダンジョンの中にいるっぽい。

 ちょっと看板に偽りありな感じがするけど、まぁいいや。わりと面白いし。

 あと、リレー小説だったのは驚いた。

 書き手さんは、メインで書いてるのが四人で、時々違う人がゲスト執筆しているみたい。

 だから書き手さんの個性が出てる文章で面白いけど……、みんな切羽詰まった雰囲気出すのうまいなぁ。

 次どうなるんだろうってドキドキしながら読み進める。

 主人公は元々剣士よりのステータスとスキルだったけど盗賊系スキルをどんどんとって、魔法の方にも才能が開花している感じ。オールラウンダーに成長しつつあるってところかな。

 わたしの好みとしては得意方面に特化してるタイプだけど、一人でダンジョン探索しているから自分でなんでもできるようにならないと生き残れないよね。

 って、あれ? 仲間要素もないよ?

 うーん、さすがに騙しすぎなタイトルでしょ。

 でも主人公がどうなるのか気になってついつい読んでしまう。

 愛読者になって三日後、最新話に追いついた。


 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 新しくオートマッピングのスキルを手に入れた。今まで踏破したダンジョンの地図が目の前に表示される。

 これでちょっとは楽になるな。同じ場所をうろうろする心配はなくなった。

 さて出口を目指すには新しい道へと進まないといけない。

 目の前に分かれて伸びる道。右か、左か。

 右からは水音のようなものが聞こえる。

 左からは温かい空気が漂ってきている気がする。

 どちらへ進めばいいかな。

 危険感知をしてみるが、今のところどちらからも反応はない。


 私はどちらへ行けばいい?

 右

 左

 コメント:


 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 おぉぉ、突然出てきた投票システム。

 なるほど、読者参加型の小説だったのか!

 だから「仲間と文章力で危機を乗り切れ!」なんだね。

 納得しつつ、わたしは「左」に投票した。コメントには「空気が温かいということは、出口とは言えなくても外とつながっている可能性があるかもしれないから」と書いておいた。

 コメントは任意なんだけど、参考にしてくれたらうれしいじゃない?

 もう夜中だ。続きはきっと明日以降だろう。

 結局最新話まで読み進めても何が「日帰り」要素なのかはわからなかったけれど。

 そんなことよりも明日はどんな展開になっているだろうか。

 楽しみにしつつ眠りについた。


 はダンジョンの中にいる。

 目の前には道が左右に分かれて伸びている。

 なんだか知っているような光景だと思ってたら、あの小説の最新話だ。

 私は左に進んだ。それが当たり前のように体が動く。

 目の前には天井までが十メートルぐらいあるんじゃないかって感じの広い空間で、地面や壁にほんのりと光る何かの結晶の塊のようなものがある。

 出口じゃなかったか。

 ちょっとがっかりしつつ広い空洞を抜けようとすると、何か嫌な感じがビリビリと肌を刺す。

 岩陰から出てきたのは、巨大な蜘蛛だ!

 鑑定してみる。

 大きさに見合わず動きが素早い、毒持ち、当然糸も出すって特徴だ。ステイタスは今の私より少し弱いけど油断ならない。

 どうする?

 剣で斬りかかる? 魔法? 逃げる?

 瞬時に頭の中に浮かんだ選択肢は三つだ。

 と、蜘蛛の動きがピタリと止まる。

 蜘蛛だけじゃない、私も動けない。なんだか時間の流れが止まったかのような気がする。


『これまでの冒険を執筆してください』


 目の前に白い画面と、タッチパネルにキーボードが浮かび上がる。

 えぇっ?


『制限時間は十分です。時間を超えるとあなたの意識はその世界に定着します』


 ……はぁっ!?

 なにそれ怖いんですけどっ!

 と、とにかく執筆だ。


『私は左へと足を進めた。そこには巨大な空間が広がっていて、地面や床には何かの結晶のような塊がそこここにある』


 こんな調子で「私」の体験したことを急いで書く。

 情景を書き終えたら投票ボックスが浮かび上がった。

 なるほど、そういうことだったのか!

 納得しつつ、項目を埋める。


 目の前の蜘蛛に対して私はどうすればいい?


 剣で戦う

 魔法で戦う

 逃げる

 コメント:


 すべてを書き終えて「更新」ボタンを押す。

 少しすると、ぽつぽつと投票が入り始める。

 魔法で戦う方が多いみたい。

 コメントには「蜘蛛は火に弱いことが多いから初手は火の魔法で攻撃すればいい」というのが寄せられている。

 あ、このコメントくれてるのって、常連執筆者の一人だ。

 よし、火魔法で攻撃するのを採用だ。

 すると体が動き出す。

 投票の結果通り「私」は火炎系の中位魔法を使って蜘蛛を弱体化させた。

 これなら剣で止めを刺せるな。

 「私」は勝利した。

 こんな調子でダンジョンを進んで行って、三回投票システムに書き込んだところで、――目が覚めた。

 跳び起きて、あの小説を読みに行く。

 昨夜の夢でわたしが書いた文章がそのまま続きとして掲載されていた。最後の選択肢のところで止まっている。

 執筆者の名前は、わたしのネット上のペンネームになっていた。

 夢の中で――多分本当にあの世界にトリップしていて、うまく執筆して現実に戻ってくる。

 だから日帰りダンジョン。

 面白い。

 わたしはそれから毎日、小説の続きを読みに行って積極的に投票に参加した。

 時々、執筆者として選ばれて夢の中で冒険を楽しんでいる。



(了)

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