エピソード29 口論
「う~ん・・・。」
私は改めてフォスティーヌから預かった水着をベッドの上に置き、腕組みをしながらじっと見つめた。
「本当に恥ずかしい水着だわ・・・いや、でも待って。実際に着てみれば・・あら、意外と大丈夫そうね?何て事もあるかもしれないし・・ええい!まずは試着よ!」
そして私は水着を持ってバスルームへと移動した。
「・・・・。」
今、私は部屋にある全身姿見で水着を着た自分の姿をじっと見つめていた。
「そ、それにしても・・・。見れば見るほど・・・。」
思わず頭を抱え込んでしまった。その水着は布面積が非常に小さく、かろうじて大事な部分を隠す程度の水着だったのだから。
「い、いやあ・・・何よ何よ何よ。このいやらしい水着は・・・こんな水着着て歩いていたら変態扱いされるか、どうぞ襲って下さいとアピールしているかのどちらかじゃないの・・・そ、そうだ・いいことを思いついたわ。フォスティーヌにはこの水着を着るように言われたけど何も上に着ないでとは言われていないわ。だったら・・!」
私は恥ずかしい水着のまま、クローゼットを漁って持参してきた服を探していた時・・・。
ピンポーン
部屋のインターホンが押された。
「あ・・もしかしてフォスティーヌかな?さすがにこの水着は悪いと思って別の水着を持ってきてくれたのかも!」
私は期待に胸膨らませ、水着姿のまま部屋のドアを開けた―。
ガチャリ・・・
「「へ・・・?」」
そこに立っていたのはフォスティーヌではなく、何とアレクだったのだ。
「な・・リ、リア・・・お、お前・・・その格好・・・。」
アレクは途端に真っ赤になって私を指さす。
「キャアアアアッ!見、見ないでっ!」
私は咄嗟に胸を隠してしゃがみこんでしまった。
「わ、悪いっ!!」
アレクがくるりと背を向ける気配を感じ、私は尋ねた。
「な、な、何よっ!アレク・・・・突然部屋を訪ねてきて・・・っ!」
恥ずかしさと、アレクにこの姿を見られてしまったショックで、ついきつい口調になってしまう。
「わ、悪いっ!ま・・まさかリアがそんな恰好しているとは思わなくて・・・っ!」
「そ、それで・・・何か用なの?」
ようやく少し落ち着いた私はアレクに尋ねた。
「ああ・・今日、何時から悪役令嬢ごっこを演じるのかと思って・・。」
その言葉に私は少しカチンときてしまった。酷い、アレク・・・好きで悪役令嬢を演じるわけじゃないのに・・ごっこなんて・・・。
「11時からだけど・・・どうしてそんな事聞くの?」
「どうしてって・・・それは気になるからだろう?」
「どうしてアレクが気にするのよ。そもそもアレクには何の関係も無い話だよね?」
「そりゃ・・確かにそうだけど・・何だよ?妙に・・突っかかって来ていないか?」
アレクが声のトーンを落として尋ねてきた。
「別に・・・ほら、もう分かったなら部屋に戻って?着替えたいから・・・。」
「あ、ああ・・分かったよ・・。」
アレクがドアに手を掛ける気配を感じた、その時アレクが言った。
「・・・なぁ、リア。」
「・・何?」
「お前・・・まさかその水着を着るつもりじゃないよな・・・?」
「着るけど・・それが何か?」
「はぁ?!リア・・本当にその水着・・着るつもりなのか?!」
突如、アレクが私の腕を引っ張って立ち上がらせると自分の方を振り向かせた。
「ちょ、ちょっと!何するのよっ!」
咄嗟にアレクに背を向けると私は言った。
「・・やめておけ、リア。その水着・・着るの恥ずかしくてたまらないんだろう?」
アレクの言葉に顔が赤面してしまう。
「し、仕方ないでしょう?友達に頼まれたんだから。」
「・・なら俺が言ってやる。リアに変なもの着させるなって。」
「ちょっと・・・やめてよっ!もしも・・フォスティーヌに・・変なこと言ったらもうアレクとは口を聞かないからね?!」
思わず口調が強くなってしまった。
「・・・分かったよ、好きにしろ。」
そしてバタンと部屋の扉は閉じられた。
「・・・何よ。アレクの馬鹿・・・。」
1人、部屋に残された私は呟いた―。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます