エピソード28 ヘルシーモーニングセット

「ちょ、ちょとアレク。どうして私の後ろの席に座るの?」


私は背中を向けたままアレクに話しかけた。


「だって俺と一緒にいるところを皆に見られるのはまずいんだろう?それにお前を1人にして置いたら、いつどこであそこの連中に目を付けられるか分からないからな。俺はここでお前を見張っておいてやるよ。」


アレクの言葉は嬉しいけれど・・・。


「アレク・・・でもいいの?私にばかり構っていたら・・他の女性との恋愛も出来ないでしょう?アレクだって恋人か結婚相手を見つける為にこの島へやってきたんじゃないの?」


「・・・。」


しかしアレクからの返事が無い。


「アレク?」


「・・・俺の事は気にするな。一番気がかりなのはお前の方だよ。ここに来ている連中は皆俺から見れば男も女も盛りのついた連中ばかりだ。」


「盛りって・・・。」


何て表現の仕方をするのだろう。でも一言言っておかなければ。


「・・言っておくけど、私はそんなんじゃないからね?」


「ああ、分かってる。俺だってそうだ。」


そこまで話していた時、ウェイターの男性がやってきた。


「おはようございます。朝はこちらのモーニングセットメニューから選べます。お好きなメニューをお選びください。」


言いながら美しい写真付きのメニュー表を差し出してきた。


「う~んと・・どれもおいしそうだけど・・そうだ、それじゃこの『ヘルシーモーニングセット』を下さい。」


「かしこまりました。」


ウェイターにメニュー表を返すと、彼は礼儀正しく頭を下げ、後ろのアレクにも朝食を尋ねていた。

その時・・・。

突然私のスマホがメッセージの着信を知らせた。


「うん?メッセージ・・・あ・・。」


それはフォスティーヌからだった。


《 今日11時によろしくね。場所はホテルの真ん前の海水浴場だから! 》


「・・・。」


妙に気合の入ったメッセージだった。やっぱりやる気なのね・・・。いやいや、それ以前にあの水着は無いでしょう?あんな派手な水着を私に着ろって言うの?あんな水着を着て歩くだけでセクハラだ。なのに・・・。


「あ~・・もう、最っ悪!」


思わず頭を抱え・・・背後からアレクに声を掛けられた。


「どうしたリア。何かあったのか?」


「フフフ・・・私は11時から悪役令嬢になるからね・・。」


乾いた笑いをしながらアレクに言う。


「は・・?」


アレクが首を傾げた時・・・。


「お待たせいたしました。」


ウェイターが朝食を混んできてくれた。そして私の目の前に次々と美味しそうな料理を並べていく。


「ごゆっくりどうぞ。」


全ての料理をテーブルに置くとウェイターは去っていった。


「うわ~・・・おいしそう・・・。」


思わず口に出して言うと、アレクが後ろから料理を覗き込んできた。そして言う。


「へぇ~・・・美味そうじゃないか。何てメニューだ?」


「これはね、『ヘルシーモーニングセット』だよ。」


「ふ~ん・・・リア。お前・・十分細いのに体形に気を使っているのか?」


「仕方ないのよ・・・。これには色々訳ありでね・・・。」


言えない、とてもじゃないけど・・アレクには言えない。過激な水着を着る為に体形を維持しなくてはならないから・・・なんて・・!


「そういうアレクは何を注文したの?」


「俺か?俺は『スタミナモーニングセット』だ。」


「あ~・・・成程ね・・確かにアレクらしいメニューだね。さて、食べよっと。」


私は早速フォークを手に取った。

この『ヘルシーモーニングセット』の中身はオレンジジュースフルーツとグラノラ入りのアサイーヨーグルト・ナッツ入りクッキー・全粒粉テーブルパン・ブルーチーズ・豆乳プディング・ハイビスカスティーというメニュー。

どれもが最高に美味しかった。



「あ~・・・美味しかった・・・。」


すっかり満足した私は後ろのテーブルについているアレクの様子をうかがうと、彼はハンバーガーにかぶりついていた。


「お先にね、アレク。」


私は背後のアレクに声を掛けた。


「おう、また後でな。」


「うん、じゃあね。」


簡単に挨拶を告げると私は部屋へと戻って行った―。



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