エピソード30 ヒーロー登場!

午前11時―


ザザーン・・・・ザザーン・・・・


寄せては返す波の音。


雲一つない青い空にコバルトブルーの海の色・・・。


波打ち際の白い砂浜の上を1組の仲睦まじいカップルが手をつないで歩いている。

つばの広い真っ白な帽子にノースリーブのワンピースを着た銀色の長い髪の少女は片手に脱いだビーチサンダルを持ち、素足で砂浜の上を歩いている。そして隣を歩くのは栗毛色の柔らかい髪の男性。彼は優しい瞳で少女を見つめている。それはまさに、絵に描いたかのような理想の恋人同士の姿であった。


 よしっ!ついにこの瞬間がやってきたわね?!

真っ赤なひもで結ぶビキニの水着の上から白いパーカーに水色のショートパンツ姿の私は急いでそれらを脱ぎ捨てた。途端に露になるビキニ姿のきわどい姿の私。うう・・は、恥ずかしい・・・。恥ずかしいけど・・行くしかないっ!

私は砂浜をはだしで歩き、背後から大きな声で呼びかけた。


「ちょおっと!そこの2人、待ちなさいっ!!」


「え?な・何?」


王子様は私を振り向き、途端に顔が真っ赤になる。


「キャアッ!リアンナさん!!何て恰好してるの?!」


しらじらしい演技をするフォスティーヌの目は笑っている。

そして私とフォスティーヌは一悶着の後、王子様は彼女を軽々と抱き上げ、砂浜を歩き去って行く・・。


「頑張ってね。フォスティーヌ。」


そして2人の背中を見送った私はヤシの木に脱ぎ捨ててあったパーカーとショートパンツを取りに戻ろうとした時・・・。


「やあ、リアンナ?」


突然岩陰からニールが現れた。


「あ、ニ、ニールッ!!」


もう最悪だ。こんな危なっかしいビキニを着ているときにニールに会ってしまうなんて・・・案の定ニールはいやらしい笑みを浮かべながら私に近付いて来る。


「リアンナ・・・その水着・・・随分過激だけど・・・すごくよく似合ってるねぇ・・・やっぱり君はスタイルが最高だよ。すんなり伸びた長い足に細くくびれた腰、それに・・その豊満な胸は・・思わず顔をうずめて見たくなるねぇ。」


その嫌らしい言葉に私は全身に鳥肌が立つ。

ま・・・まずい・・・こ、このままでは私の・・て、貞操の危機が・・・。

思わず後ずさると、ニールは砂浜だと言うのに恐るべき速さで私に近付き、右手首を掴んで自分の体に引き寄せてきた。


「キャアッ!」


そしてそのまま砂浜の上に倒される。


「や・・やめてっ!は、離してよっ!」


涙目になって訴えて必死で暴れても恐ろしい力で抑えつけられて少しも身体が動かない。


「まぁまぁ・・いいじゃないか・・。あの王子と女の子だって今頃はよろしくやってるんだろうからさぁ・・俺たちもそうするべきだと思わない?大体・・こんな格好、男から見たら、どうぞ襲って下さいって言ってるようなものだよ?」


ニールは私が思っているのと同じことを言ってきた。だけど・・・私だって好きでこんな格好しているんじゃないっ!


「嫌!どいて!離してよっ!」


なのにニールは私の両手を左手だけで握りしめて、腕を上にあげさせられてしまった。そしてニールの右手が私の水着にかかろうとした時・・。


「おいっ!やめろっ!」


ニールの背後で声が聞こえた。その声は・・アレクだった。


「アレクッ!助けてっ!」


半泣きになってアレクに助けを乞う。


「リアッ!貴っ様~っ!」


アレクは激怒していた。


「な、何だよ・・・ちょっと遊んでやろうかと思っただけでお俺は・・・。」


たじろぐニールにアレクは無言で大股で近付くと胸倉をつかみ、拳でニールの顔面を殴打した!


「ヘブッ!」


情けない声を上げて、鼻血を出しつつ、物も言わずに砂浜に倒れこむニール。一方私は恐怖で腰が抜けてしまったかのように砂浜の上に座り込み、ガタガタと震えて動くことが出来なかった。


「リア・・・大丈夫か?」


いつの間にかアレクは私のパーカーを手に持っていて、それを肩から掛けてくれた。


「あ・・。」


私は自分のパーカーに触れると、途端に涙があふれてきた。


「ア・・・アレク・・・。」


「リア・・・。」


アレクはためらいがちに私の髪に触れた。その瞬間、私の中で何かがはじけた。


「ウワアアアアン!こ、怖かった・・・・!」


私はアレクにしがみつき、ワンワン泣いた。そんなアレクは私を抱きしめ、優しく髪を撫でてくれる。


顔を真っ赤にさせながら・・・。


でもその事実を私が知るのは・・もう少し後事の話になる―。

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