エピソード17 ため息ついて

 ホテルを出た私の目に青空の下でハイビスカスの花が咲き、ヤシの木が茂った美しい南国の風景が広がっていても、心は少しも晴れやかでは無かった。


「はぁ~・・・。」


思わず下を向いて溜息をつく私。


「どうしよう・・・やってしまった・・・。」


あんなに大勢の女子のいる前で私は悪役令嬢をやってしまった。これで私は周りから嫌な女として嫌われてしまったに違いない。着いて早々の初日にこんな事になるとは思わなかった。


「はぁ~・・・・。」


再び下を向いて溜息をつくと背後から声を掛けられた。


「リア。」


その呼び方は・・・振り向くとやはりそこに立っていたのはアレクだった。


「アレク・・・。」


「リア、下を向いて溜息なんかつくな。幸せが逃げていくぞ。」


「はぁ~・・・。」


「うん?今度は・・何してるんだ?」


「上を向いて溜息をついてるの。これなら幸せが逃げないでしょう?」


力なく笑いながら言う私。最も・・・こんな事しても無意味なのは分かってるけど。


「ハハハ・・・お前、面白い奴だな。」


アレクは快活に笑う。


「・・・私はちっとも笑えないよ・・・。」


そしてアレクを見ると言った。


「アレク、もう私には関わらない方がいいよ?きっと今ので私は完全に嫌われたと思うから・・一緒にいるとアレク迄変な目で見られるよ?アレクだってさ・・王子様の付き人としてこの島へ来たって事は・・・恋人か婚約者になる相手を探しに来たんでしょう?私といても損するだけだってば。それじゃあね。」


ヒラヒラと手を振ってホテルの敷地をでようとしたところ、いきなりアレクに右手首を掴まれた。


「おい、待てよ。リア。一体どこへ行くつもりだ?」


「え・・・?今ホテルには戻りにくいから、ちょっとビーチの散歩でもしてこようかと思っただけだよ?」


「俺と一緒に買い物に行く約束だっただろう?」


「だから、それはさっきまでの話だってば。あんなことがあったんだから、もうその話は無しだよ。誰か他の人を誘ったほうがいいってば。」


「勝手に話を変えるなよ。」


何故か話せば話すほど、どんどんアレクの機嫌が悪くなっていくような気がする。


「それにな、何で俺があそこいいる女たちの中から探さなくちゃならないんだ?」


真剣な目で私を見つめてくるアレクに私は思った。・・・ひょっとすると、アレクは男性の恋人を探しにきたのだろうか・・・?だったら今アレクに付き合っても構わないか。さっきの現場に男性の姿は無かったからね。


「うん、いいよ。それじゃ予定通り買い物に行こうか?」


ついでにアレクが魅力的に見える服を選んであげるのもいいかもしれない。


「よし、リア。それじゃ行こうか。」


アレクは私の左手を掴むと、ホテルの敷地内を左に進みながら言う。


「車のガレージはこっちにあるんだ。車は24時間いつでもレンタルすることが出来る。リア、お前は免許持ってるのか?」


「うん、持ってるよ。」


「運転はしてるのか?」


「う~ん・・・週末ならショッピングに行くために乗るかな?大型ショッピングセンターは家から10K以上離れているからね。」


「そっか・・・ならリアが運転するか?」


アレクは私を振り向いた。


「いえ・・・遠慮しておきます。」


正直言うと、運転はするけどあまり好きなほうではない。


「私はね、乗るより乗せて貰う方が好きなの。」


それを聞いたアレクの足がピタリと止まり、私の方を振り返った。


「・・・誰だ?男にか?」


男・・・う~ん・・・乗せてもらうのはいつも兄だから・・・。一応男になるよね?


「うん。そうだよ。」


「・・・・。」


途端に再び不機嫌な顔になるアレク。


「・・・行くぞ。」


そしてプイとそっぽを向く。


「ねえ。何で怒ってるの?」


「別に!怒ってねーし!」


う~ん・・やっぱり怒ってるみたいだ・・・。私は心の中で溜息をつくのだった―。

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