エピソード16 悪役令嬢は飲み物をねだる

 それから1時間後、ぴったりの時間に私のスマホが着信を知らせた。相手は勿論・・・アレクだった。


「はい、もしもし。」


『ああ、リアか?今お前の部屋の前で待ってるんだ。すぐに出てこれるか?』


「うん。準備は出来てるから大丈夫だよ。それじゃ今出るから電話切るね。」


通話を切った私はデニムのショルダーバックを肩から下げて部屋を出た。

すると壁に寄りかかるようにアレクがそこに立っていた。アレクはブランド物の白いTシャツにダークグリーンのカーゴパンツを履いている。


「お待たせ、アレク。」


「ああ、それじゃ行くか?」


アレクは短く言うと、さっさと階段を降り始めた。


「あ、ねぇ!行くって・・・何所へ行くの?」


「だからさっき買い物に行くって言っただろう?」


アレクは振り返ると言った。


「うん、そうなんだけど・・でも買い物する場所ってネットで調べたら、かなり遠いところにあるよ?ここから5kは離れてるじゃない。とても歩いて行ける距離じゃないんだけど・・。」


「歩いて行くはずないだろう?このホテルにはレンタカーが10台置いてあるんだ。それを借りるんだよ。って言うか・・・もう借りてあるから安心しろ。」


アレクは車のキーを右手の人差し指に掛け、カチャカチャと回しながらニヤリと笑った。


「おおっ!すごい!車を手配済みだなんて・・やるじゃない。」


「だろう~?」


2人で話をしながら1階まで階段を降りると、エントランスホールのソファに王子様1人に対し、6人の女性が群がっている光景を目にしてしまった。


「うわっ!何・・あの光景は・・・。」


「・・・。」


アレクは何故か眉をしかめながら無言でその様子を眺めている。その時、不意にフォスティーヌがこちらを振り返って来た。フォスティーヌは王子様から一番遠くはなれた場所に座っている。・・・何だか嫌な予感がしてきた。フォスティーヌは私から目を離さずに、必死で口をパクパクと動かして私に何かを訴えている。そう・・小さな子供の時からの付き合いだ。フォスティーヌが何を考えているのか私には手に取るようによく分る。彼女は訴えているのだ。王子様の気を引く為に自分を虐めて欲しいって!


「フォスティーヌ・・・・。」


私は口の中で小さく呟いた。

確かに私はこの島で悪役令嬢を演じるように頼まれた。けれど、大勢の人の前ではやらないという条件を付けたにも関わらず、彼女は懸命に私に訴えている。


「おい?どうした?リア?」


突然立ち止まった私を先に歩いていたアレクが振り返り尋ねてきた。


「ごめんなさない・・アレク・・・。」


私はアレクに謝った。


「え?何を謝るんだ?リア。」


不思議そうな顔で私を見るアレクを無視し、私は大股で彼女たちに近付き、おもむろにフォスティーヌの傍でとわざと大きな声で言った。


「あら、フォスティーヌさん。こんなところで一体何をしているのかしら?暇なら私に何か飲み物を買って来てくれるかしら?」


言いながら、近くのソファにどさりと座ると、わざと足を見せるようにスカートをまくって足を組む。

その様子を驚きの目で見る女性陣と王子様。


「は、はい!分かりました!」


フォスティーヌは立ち上がると、駆け足でホテルの売店へ向かって駆けて行く。そんな様子を冷めた目で見る私。

そしてものの数分でフォスティーヌは缶ジュースを買ってきた。



「ど、どうぞ・・・リ、リアンナさん・・・。」


ハーハー息を吐きながら私にオレンジジュースを差し出すも・・・。


「あら、何よっ!こんなジュースなんか買って来て・・!どうしてアイスコーヒーにしなかったのよ!」


ピシャリと言うと、フォスティーヌが泣き顔になる。


「う・・す、すみません・・・。」


「全く・・・本当に気の利かない女ね?!」


そして腕組みをしてそっぽを向いてやる。


その様子をひそひそ言いながら見守る女性陣・・・。一方王子様はついに我慢できなくなったのか、私に言った。


「君・・・彼女が可愛そうじゃないか・・・。」


「あら?だったら王子様がその子を慰めてやって下さいな。」


そしてくるりと背を向け、私はホテルを出て行った。


ああ・・これで私は他の人達からも嫌な女として見られてしまう・・。


思わずため息が出る私であった―。

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