妹と私と読者と仲間たち。

山岡咲美

妹と私と読者と仲間たち。

 今日も私はスマホに向かう。



 どこの誰とも知らないあなたに小説を書くために。



 始めたきっかけは単純なものだった。



 ただ単純に『カクヨム』って小説サイトのテレビCMを見た事だった。



 そのCMを見た瞬間心が踊った。



 そうかネットで小説書けるんだ!



 私は直ぐにアプリを探してインストールした。


 登録は少しだけ大変だったけど機械が苦手な私にも出来た。



 ワークスペースは思いのほか使いやすかった。



 小説は簡単に書けた。



 書きたいと思ったらアイデアが溢れだした。



 そして「ドキドキ」の初投稿。



 誰かが読んでくれた!



 私は思わず続きを書いた。



 時計の針は次の日を指していた……。





***




「ねえ、お姉ちゃんまたそれやってんの?」


「ん? そうだよ」


 妹の萌香もえかが私の部屋に服を借りに来た、ミントグリーンのゆったりニット、私はロングスカートを好むが萌香はそれをミニスカートで着こなす。


 萌香は明るくポジティブでアウトドア派な高校生、一方私、藤崎楓ふじさきかえではネガティブって程では無いけどインドア派の大学生。


 んー……


 身長は同じくらい、足の長さは……


「遺伝子って意地悪に出来てるのね」


 私は底意地の悪い遺伝子を呪ってみた。


「何? お姉ちゃん」


「いいえ何でも」


「楽しい?」


 ん?


「小説の事? 楽しいけど?」


「どこが?」


 珍しい、萌香が小説に興味持つなんて、何時もは漫画ばかりで「文字ばっかだと頭痛くなる!」って言ってるのに。


 でも萌香、メールはよくしてるのよね。


「どこがって、書くのも読むのも楽しいよ」


「儲かる?」


 …………


 なるほどそれか!


「フフ、儲かりはしないわね、どこで聞いたの?」


「友達がネット小説書いてて「ひと山当てちゃる!」とか言ってたから」


「まあ、確かに何万人の人に読んで貰えたらお金になるかも知れないけど、普通は難しいんじゃないかしら」


「ふーん、そっか」


 萌香はつまらなそうに私の部屋から出て行こうとした。


「……でも楽しいんだよねお姉ちゃんは」


 …………


 …………


「うん、楽しいよ♪」


 萌香は何か言いたそうだ。


「書いてるの見てく?」


「うん」


 私は少し首を傾け萌香はそこからスマホを覗き込んだ。





***





 私は悩む。



 読者さんのフォローどうしようか?



 書く人はきっと読まれたい筈だからフォローすれば喜んで貰える。



 私だって読まれたら嬉しいし、小説の通知が届いてくれるのも嬉しい。



 でも読む専門の人はどうだろう?



 作家が付きまとってるようでイヤ?



 自分のページ見られたくない?



 それもと繋がると嬉しい?



 私は悩む。



 取りあえず人の嫌がる事はしたくないし。



 「これから書く」みたいなコメントのある人だけフォローしてみる。



 最初は考え無しに名前の解る人全員フォローしてた。



 私は悩む……。





***




「へー、お姉ちゃんっていろんな事考えてんだ」


「そうね、ネット小説って相手が居るから考えちゃうわね」


「ふーん」


「めんどくさいって思った?」


「ううん、仲間ってそう言うものでしょ?」


「仲間?」


「そうでしょ? 一緒に小説書いたり一緒に小説読んだりする仲間、なに考えてるのかは本当は解らないけど思いやるのが仲間」


 私は萌香に言われ「ハッ」と気づく、私は仲間に小説を書いていて、仲間の小説を読んでいたんだ。


「仲間、仲間か……いいわねその考え方! 私今日から仲間って思うわ♪」






 私は新たな発見が嬉しかった。



 書く人も読む人も仲間なんだ。



 今日から小説書くのが、読むのが、もっともっと楽しくなる。





 …………


「お姉ちゃんは感性がバカなの?」


 萌香はお姉ちゃんは天然で困るとばかりにあきれ、ひにくっぽく口角を上げ私の部屋を出て行った。


 きっと私なんかより似合うミントグリーンのゆったりニットと共に。





「萌香も書いてみようかな、お姉ちゃんみたいに……」





***





 今日も私はスマホに向かう。



 どこの誰とも知らないあなたに小説を書くために。



 大切な仲間のために。

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