第13話 勇者、街に出る
人間界の街に出かける日。
魔法で人間に化けた魔王は、特徴的な大きな角が見えなくなって全体的に小さくなった。それでも人間の平均的な成人男性に比べればかなり大柄ではあるのだが。
上質な服に身を包んでいるので、身分の高そうな男性に見える。
マリーの外出着は、城の者達による白熱した議論の末に深い緑色のワンピースに決まった。
自分の服装のことでどうしてあんなに揉めるのか、マリーにはやっぱりよくわからなかった。
出発前、魔王がマリーに話しかける。
「マリー、人間に化けている間は我を魔王と呼んではいけない。わかるな?」
「はい。でも、何とお呼びすればいいのでしょうか?」
小首をかしげるマリー。
「そうだな…いつものメイド服なら主と使用人ということで『旦那様』になるのだろうが、今の服装ではちと合わぬな」
魔王に帽子を手渡しに来た側近が口を挟む。
「こうして見るとお2人は親子のようですから『お父様』でよいのではないでしょうか?」
「おお、それはよいな。マリー、練習だ。呼んでみよ」
マリーが人間に化けた魔王を見上げる。
「お、お父様…」
「よく出来たな。ではその調子でな」
マリーの頭をなでる魔王。
「では、出かけるぞ」
「「行ってらっしゃいませ」」
城の使用人達に見送られ、魔王はマリーを抱き上げて転移魔法を展開した。
着いたところは大きな街にある商会の一室だった。
この商会は魔族の者が営んでおり、最上階の奥の部屋を魔王専用としてある。
外に出るとたくさんの人間が歩いていてマリーは驚いた。
いろんな店が建ち並ぶ大きな通りをマリーは魔王と手を繋いで歩く。
「何か思い出したことはあるか?」
黙って首を横に振るマリー。
大きな書店に入り、まずは料理本のコーナーでお菓子の本を探す。
「好きなだけ買ってよいからな。城の者達へのみやげでもよいぞ」
「はい、お、お父様」
マリーはいろんな本を見比べて、自分でも読めそうな簡単なものと菓子職人へのおみやげに少し難しそうだけどおいしそうなお菓子がたくさん載っている本を選ぶ。
そして被服担当のスケルトンに頼まれていた女性用の服の型紙が載っている本もなんとか選んでみた。
「さて、そろそろ一休みしようかの」
書店の後は雑貨屋などをまわり、カフェへと連れて行かれた。
「うわぁ、すごいです!」
出てきた皿には小さなケーキが何種類も乗っていた。
「なんだか食べるのがもったいないくらいですねぇ」
マリーはしばらくはうっとりとケーキを眺め、どれから食べるか迷いながらカフェのケーキを楽しんでいる。
魔王は珈琲を飲みながらそんなマリーを見守っていた。
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