第14話 勇者、再会する

 転移の拠点となっている商会へ戻る途中、魔王は偶然会った知人の魔族と話を始めた。

 マリーは近くにある大きな噴水をよく見ようと思い、魔王の了承を得て少し離れる。魔王城にも噴水はあるが、ここまで大きくはない。日差しを浴びた水がキラキラしていて、ずっと見ていても飽きない。


「ローズ!」

 背後から声がしてマリーはハッと振り返る。

 なんで知らない名前なのに振り返ったんだろう?と自分でも不思議に思っていると、波打つ金髪を揺らしてとても綺麗な女性が駆け寄ってきた。

 いきなり左手を取られて手の甲を確認される。

「ああ、本当に生きていたのね!私達、貴女のことをずっと探していたのよ」

 女性が泣きながらマリーをぎゅっと抱きしめる。

 わけがわからなくて女性から逃れようとするマリー。

「あ、あの、貴女はどなたですか?」

「…え?」

 呆然とする女性。

「私のこと、知ってるんですか?」


 マリーは背後から近寄ってきた魔王によって女性から引き剥がされ、肩を抱き寄せられた。

「当家の使用人に何か御用かな?」

「…使用人?」

「左様、この者は我が城のメイド見習いのマリーだ」

「その子はローズよ!その左手の甲の紋は間違いないわ」


 そんなやりとりの間に金髪の女性の背後には3人の男性が駆けつけていた。

 銀髪の眼鏡をかけた細身の男。

 黒い長髪でローブを身に纏った男。

 赤い短髪で大剣を背負った男。


 金髪の女性と3人の男が揃った状況を見たマリーの脳裏には、燃える花畑の光景が浮かんだ。

 その花畑の中で燃える人影も。

「いやぁ!」

 短い悲鳴を上げたマリーは崩れるように倒れて意識を失った。

「マリー!」

「ローズ!」

 魔王がとっさに支え、すぐに抱きかかえる。

「ローズを返してっ!」

 縋り付こうとする金髪の女性を振り払う。

「今は返せぬ。だが、この娘について情報交換したい。そちらさえよければ明日のこの時刻にこの場所でまた会おう。ただし、来ていいのは女とそこの眼鏡の男だけだ」

 魔王とマリーの姿は噴水のそばから一瞬で消えた。



 勇者が欠けたままの勇者パーティは近くの宿に戻った。

「勇者と話したのか?」

 賢者が呆然としている聖女にたずねる。

「…私のこと、誰だかわからないって。一緒にいた男は自分の家でメイド見習いをしているマリーって言っていたわ」

 賢者が少し考える。

「記憶を失っているか、あるいは封じられているか、だな」

「でもさ、あの男って人間に化けてたけど魔族だよな?」

 赤い髪の戦士が言う。

「そうだな。それもかなり高位の」

 魔術師が答える。

「勇者の身柄が向こうにある以上、明日会わねばなるまい」

 賢者が締めくくった。

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