第8話 勇者、メイドになる
マリーが働きたいと申し出てから数日ほど経った日の朝、魔王の執務室のドアがノックされた。
「入れ」
メイド長に連れられてメイド服を着たマリーが入ってくる。
メイド服の形は他のメイド達とほぼ同じだが、スカートだけはロングではなく膝丈である。
「こちらが本日よりメイド見習いとなりましたマリーでございます」
「マリーです。よろしくお願いいたします」
一歩前に出てペコリと挨拶した。
「うむ、皆の言うことをよく聞いてしっかりと勤めるがよい。それから我の午後のティータイムの供はそなたの役目なので、そちらも忘れぬようにな」
「はい、魔王様」
マリーはメイド見習いになったが、部屋は引き続き客間を使うことになった。マリーは使用人の生活棟に移ると言ったが、魔王は『マリーは自分の客人であるし、執務室から遠くなる』と言って却下した。さすがに専属メイドはつけないことにはなったが。
マリーの初仕事は猫の獣人である先輩メイドに掃除を教わる。
左手の小指に封印の指輪がはめられている今のマリーには簡単な魔法も使えない。
掃除は教わったことを1つずつ丁寧に実践していく。
「先輩、こちら終わりました!」
猫の獣人メイドがチェックする。
「うん、問題ないね。よくできました」
マリーの頭をなでる。マリーも照れたように笑う。
先輩メイドは初めて出来た後輩がかわいくてしかたがない。休憩時間もいろいろ話をしてくれて、移動中には各部署にも紹介してくれた。
最初の10日間は掃除だったが、次は庭師の手伝いに決まった。
草取りや花がら摘みをしながら花の名前やそれぞれの栽培方法を聞いていく。2日目からはもらったノートに絵とともに記録するようになった。
「おや、マリー嬢ちゃんは絵が上手いのぉ」
ノートを覗き込んだ庭師が感心する。さらにマリーのアイデアでイラスト入りの庭の地図や花木の管理台帳も作成することになった。
10日間ほどの庭仕事の後は厨房の仕事を手伝うことになった。
食器洗いから始めたが、今は食材の下ごしらえを手伝っている。
「マリーは芋の皮むきが早くて丁寧だよなぁ」
料理長が感心したように言う。
「あの、料理長さん…1つお願いがあるんですけど」
話しながらも手は止まらないマリー。
「何だ?」
「あの、私にお菓子作りを教えてくれませんか?材料代とかはお給料をもらえるようになったら必ずお返しします。お世話になっている魔王様に少しでもお礼を…あ、でも私なんかが作ったものを差し上げちゃダメでしょうか?」
料理長がマリーの頭をなでた。
「大丈夫だ、作るのは俺が許可しよう。材料もここにあるものなら費用など気にせず使っていい。最初はクッキーとかの焼き菓子かな。あとで菓子専門の職人に話をしておくから、そいつから教わるといい。ラッピングの仕方とかも教えてくれるぞ」
「ありがとうございます!」
ニッコリと笑った。
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