第7話 【幕間】勇者のいない勇者パーティ
勇者の生まれた国の隣国にある大神殿の一室。
「勇者の反応はいまだ魔界にあります」
聖女がそっと地図を指し示しながら告げる。
「では勇者は生きている、ということで間違いないんだな?」
賢者が聖女に詰め寄る。
「はい。ただ、今の状況では詳細な位置の特定は難しいです」
「もっと近くまで行けばわかるのか?」
「ええ、ここよりは精度が上がるはずですから」
「これからどうする?」
賢者はしばらく考えてメンバー全員に問うた。
「もちろん私はあの子を助けに行くわ」
聖女はきっぱりと言い切った。
「俺も嬢ちゃんが生きているってんなら取り戻しに行く」
戦士も言った。
「大切な仲間ですからね」
魔術師もつぶやいた。
黙って聞いていた賢者が口を開いた。
「私も行こうと思う。ただ、敵地にたった1人で取り残された勇者たる少女がどう扱われるか…もちろん無事に取り戻すことが目的だが、最悪の事態も頭の片隅に置いていてほしい」
「…わかっているわ」
聖女はスカートをぎゅっと握りしめた。
勇者の生まれた国は内政のゴタゴタに対する不満の矛先を変えるため、強引に時期尚早な魔王討伐を命じた。勇者として見出され、修練を積み始めたばかりの少女に対してあまりに無謀なものだった。
サポートとして賢者・戦士・聖女・魔術師がついた。彼らは魔界への道中、勇者にさまざまな知識や技術を実戦で教える。個人の資質なのか勇者の資質なのかはわからないが、彼らにとって勇者の少女は理解も早くて教えがいのある子供でもあった。
そして魔王との最終決戦。
勇者は一騎打ちで勝負をつけることを決断し、ここまで苦楽をともにした自分達を戦地から遠ざけた。最後に見た勇者の泣き出しそうな笑顔とその後の巨大な炎と煙、そして肌で感じた猛烈な爆風は今でも勇者パーティの面々に焼きついて離れない。
勇者の生まれた国は、たまりにたまった不満がクーデターという形になり、事実上崩壊した。今も内乱は続き、諸外国からの侵略も受けている。勇者が安心して帰れる国はなくなってしまったけれど、それでも人間界に連れて帰りたい。
それが勇者パーティ全員の願い。
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