伝説の鳥・読者
金澤流都
書籍化山脈・霊峰センデンダーへのアタック
霊峰、センデンダー。書籍化を目指すものなら、誰もがその頂に憧れる。センデンダーの頂には、伝説の鳥がいると伝えられ、その鳥――「読者」に触れるものは、書籍化が叶うという。
私はそのセンデンダーに挑むにあたり、現地でシェルパのテムジンさんその1とテムジンさんその2を雇った。シェルパ族はだいたいみんなテムジンさんなので、仕方なくその1その2と呼称するが、1のほうは陽気で、2のほうは知的な印象だった。
仲間のテムジンさん二人と、私はセンデンダー山頂にいたるルートを歩み始めた。うららかな山のふもとから、大荷物をかついで山に登っていく。
山に入るなり、無数の
その先、私は登っているうちに
そんなふうに、どうにかちょっとずつ登っていくうちに、私は慢心してきたのだろう、元気に進むうちに足を滑らせて、テムジンさんその2にザイルを掴んでもらってあわやというところで
センデンダーを登るうち、私たちは雲のなかに突入した。雲の中は激しい
「これを突破できればもうすぐ山頂です! しっかり!」テムジンさんその1が陽気にそう叫ぶが、
雲の上は、まばゆい景色が広がっていた。これが書籍化山脈の雲海。センデンダーの頂の手前からは、書籍化山脈の山々の、その頭がぴょこぴょこと出ていて、私は「おお……!」と、思わず感嘆の声を上げた。なんと雄大な景色だ!
感動と興奮で胸いっぱいのまま、とにかくひたすら断崖絶壁をよじ登り、私はついに霊峰センデンダーの頂上にたどり着いた。伝説の鳥はどこだろう。あたりを見渡すが見つからない。
そのかわり、一人の老人が、ものすごく寒い山の頂だというのに、すさまじい薄着で座って、難しい顔をしていた。
「だれですあんた」カラカラの喉に痛みを感じながら、私は老人に訊ねた。
「仙人じゃよ」仙人。そんなものいるのか。素直に声に出すと仙人は言った。
「伝説の鳥よりかは実在すると思うぞい。して、なにか。お前はこの山に登って、書籍化の夢をかなえるつもりじゃったのか」
「はい。そうです」
「かーっっ!」仙人は怒鳴った。こんな酸素が薄いところでも怒鳴れるのか。びっくりする。
「宣伝だけで書籍化したいとは片腹痛いわーっ!!!!」
「え、じゃ、じゃあ、このセンデンダーに上ったのは意味がないということですか」
私がそう言うと、仙人は面倒そうな顔をして、
「そこまで言うならこれを授けようではないか」と、一万円ぶんの図書カードを渡してきた。え、この山に登ってこれっぽっち。あのものすごい
「この図書カードで、脚本術の本とか、ベストセラーの本とか、文豪の名作とかを買って読め。努力して進むしかないんじゃよ」
「はあ……」
「お前は山でなく、自分自身に打ち勝たねばならんな」
仙人は、そうやってどこかで聞いたような格言を言い、私たちに下山するように言った。これから天候も荒れてくるはずだから急げ、と仙人はいう。仕方なく、私たちは不承不承センデンダーを降りた。
――降りたそばからまた登りたくなるのが登山というものである。私は仙人からもらった図書カードで脚本術の本を買い、今度は「コーセーリョク」の頂を極めてみよう、と思った。
伝説の鳥・読者 金澤流都 @kanezya
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