届け!私のメッセージ

髙橋

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娘とメッセージのやり取りを続けている。


「今日は遅くなるよ。“お母さん”にもそう伝えといて」


私はスマホに表示されるその文面を見ると戦慄が走った。震える手でなんとか返信メッセージを送る。


「おいおい、いったい何があったんだい?今日は学校が終わったら特に予定も無いはずだろう?」


しばらくすると娘から返信が来た。


「友達の家に泊まることになった。だから“夕飯はいらない”」


私はそのメッセージを見たとき、眩暈がした。なぜ?うちの娘に限って…

私はなんとか冷静を保とうとして、深呼吸をなんどもした。

しばらく考えてなんとか返信する。


「“色々”と学校も忙しい時期だから、あまり遊びすぎてはいけないよ。中間試験も近いんだし、部活では代表選手にも選ばれたんだろう?」


私はやきもきしながら返信を待っていると返信が来た。


「大丈夫。本番当日に“赤っ恥”をかかないように、部活の練習は毎日欠かさずやってるから。

それに勉強の方も心配ないよ。テスト勉強だってしっかりやってる。運動ばかりして、勉強の方がダメダメじゃ、みんなから“白い目”で見られちゃうからね」


娘からのメッセージを読み、


「“徳川家康”の話、前にしてやったろう?覚えてるかい?」


私は全身汗だくになりながら画面をタッチしてメッセージを送った。


「あ~あれね。人の一生は重き荷を負うて遠き道を~ってやつね。でもあの言葉ってなんか説教臭いよね、家康だって重荷背負って歩いてたら“途中で”休むことぐらいあったでしょ。

だから今日の私のお泊りも気休めってことで一つヨロシクね!

同じ部活の“西川さん”の家に泊まるから。次の大会に向けて“2、3”話し合っておきたいこともあったしね。

だからお父さんも心配しないで、たまにはゆっくり“お母さんと夫婦水入らず”の時間を楽しんだら?」


娘のその返信を見て


「分かったよ」


とすぐに返信すると、私はそのまま警察に通報した。




 あれから数日たち私の目の前には今、刑事がいる。刑事はメモを取りながら私に質問をしている。


「それで最初に気付いたのはいつですか?娘さんが誘拐されたということに」


刑事がそう言うと私は深呼吸を一つして


「娘から最初のメッセージが来た時です。『お母さんにもそう伝えといて』これで気付きました」


「このメッセージで・・ですか。誘拐を匂わせるようなものではありませんが」


「私の妻は亡くなっています。娘が小さいときに。再婚もしていません」


私がそう言うと、刑事は驚いて


「つまりこの“お母さん”というのは・・・」


「娘からのメッセージですよ、意味は“SOS”」


「なるほど、暗号でしたか・・・!もしかして、それ以外にも?」


刑事が尋ねてくると、私は頷いた。


「はい、娘とは前から決めていたんです。もし誘拐されたりしたときに犯人にバレないようにメッセージを送るための暗号を」


刑事は続けて


「“お母さん”はSOSですよね。他には?」


「“夕飯はいらない”は誘拐されたという暗号です。

次に私の方から“色”の文字が含まれてるメッセージを送りました。それは監禁されてる建物の色は?という意味です。娘からは“赤っ恥”“白い目”というメッセージが返ってきました。

これは赤い屋根と白い壁の家という意味です」


刑事は聞き入っている。私は続けて


「“徳川家康”は、どこで誘拐されたのか?という意味。娘からの返信は“途中で”でした。

これは通学路からの帰宅途中でということです。

続けて“西川さん” “2、3”という単語がありました。

これは誘拐された場所から、西へ2、3キロ連れていかれた。ということです」


私は一呼吸おくと


「娘からの最後の暗号は“お母さんと夫婦水入らず”で楽しんで、でした。

これは、時間がない、急いでくれ!というメッセージです。

その後すぐに警察に通報しました」


私の話が終わった後も、刑事はしばらくメモを取っていたがそれが終わると口を開いた。


「そういうことでしたか。通報を受けた後、あなたから聞いた娘さんの監禁場所が妙に具体的だったもので、最初は正直半信半疑でしたが。条件に合う家がすぐに見つかったのも幸運でした」


刑事は続けて


「犯人は連続未成年誘拐殺人犯で、手口は未成年者を誘拐して数時間~数日間監禁し、殺害するというものです。

誘拐した後、あえて家族に連絡させ、捜索を遅らせようとしていました。

もちろんメッセージの内容は確認していたようですが。

余罪もこれからもっと出てくるでしょう。娘さんも、もし発見が遅れていたら危険でした」


それを聞くと私は改めて身震いした。


「娘さんはどうですか?大丈夫でしょうか?」


刑事が尋ねてくると


「ケガもなく、暴行もされていませんでした。他の被害者の方のことを思うと、不幸中の幸いと言えるのか分かりませんが・・・。もう学校にも通っています。とりあえずは元気そうです」


「よかった。それはなによりですね。

それにしても賢い娘さんですね。暗号を駆使して自分が監禁されている場所を伝えるとは」


「以前、一緒にミステリードラマを見ていた時にその主人公が暗号を解くシーンがあったんです。

それで私達も暗号を何か作ってみよう、ということになって。半分遊びのつもりだったんですが、

まさか本当に使うことになるとは思いませんでした」


「本当に肝が据わってますよ、自分を誘拐した犯人が目の前にいるのに、しかも犯人にバレないように何気ないメッセージの中にSOSを上手く入れてるわけですから。

賢い頭脳と太い肝っ玉、娘さんにはそれが備わってらっしゃるようだ」


刑事が感心したように頷きながら話している。


「母親に似たんでしょうね。とても賢くて強い女性でしたから」


私は娘と、亡き妻を思い浮かべた。目頭が熱くなり、少し視界がぼやけるのを感じた。

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