レベル24


 再びジャガーノートと対峙する。

 戦車のフロントがアグリへ向けて転進し、直線的な動きを始めたところまでは同じ。

 しかし、次はもう一歩踏み込んだ。

 その後、横への動きを開始した。


 タイミングをずらしたのだ。

 これで武器の届く距離を保ちながらも、真横をギリギリすり抜けることが可能となる。

 問題は戦車が推測を上回るスピードを見せた時。

 後者は明らかに脅威であるが、ゲーム開発者が見るからに低能なゴブリンとオーガのタッグに、複雑なアルゴリズムを用意するとも思えない。


 予想は的中。手を伸ばせば届く距離で戦車の巨大な車輪が駆け抜けていく。

 この距離ならば、アグリの『草刈り鎌』でも十分届く。壊れた『竹槍』から切り替えたのだ。


 柄で側面に突きを入れてみた。

「ゴン!」と鈍い音だけを発し、外的変化は一切生じない。

 側面でこの硬さならば、その荷重を支えている車輪を攻撃しても無駄だろう。

 背後からも「硬ぇ!」という声が聞こえた。

 モヒカンもアグリと同じ行動をとっている様子。


 次の狙いは動力のゴブリン兵。狙いの本命でもあった。

 アグリは草刈り鎌を下段に構えた。


 すると、「あぶねえぞ!」とモヒカンの怒号。

「なにが?」と動きが止まるアグリ。

「上だ、上っ!」

「上?」と見上げれば、オーガが荷台から身を乗り出し、棍棒を振りかぶっていた。

「あぶっ!」っと腹の底から言葉にもならない声を吐き出し、地面へ滑り込む。

 直後に、「ドン!」という破砕音が響き、地面が揺れた。


 掠ってもいないのに、衝撃波だけでHPが5%も減少した。


「そこまで柔軟な攻撃ができんのかよ!」


 戦車による突進攻撃だけを警戒していてもダメなようだ。目算からやり直し。


 戦車と行き違い、再び距離が開いた。

 まだ『逃げる』の選択は可能。

 しかし、オーガもこのまま終わるつもりはないようだ。棍棒の先をこちらへと向け、次の指示を叫び続けていた。


 だが、アグリとモヒカンはその次を待たなかった。

 猛然とに襲い掛かった。


 大型兵器攻略の基本中の基本、方向転換中の背後攻撃である。

 モヒカンも初めからそのつもりだったらしく、アグリの背後にいた分だけ一足早い。


 ゴブリン兵は戦車を転進させるため両腕が塞がっている。

 オーガのリーチでは、ゴブリン兵を巻き添えにしなければ背後への攻撃は不可能。


「貰った!」


 モヒカンの突きがゴブリン兵の後頭部にヒット。

 行動不能となったゴブリンは、そのまま地面へ倒れこむ。


 アグリはその隣のゴブリン兵の足を狙った。下段構えからの横なぎ。

 ゴブリン兵の足に赤黒いエフェクトが生じ、HPバーが激しく揺れた。

 しかし、行動不能までには至らない。ゴブリンはダメージを無視するように転進作業を続ける。


「背後からだとダメージが薄いか……」


 ゴブリン兵も背後からの攻撃を想定して、頭部には厚い革布を、背中には亀の甲羅のようにバックラーを背負っている。

 だから、最も装備の薄そうな足を狙ったわけだが、武器の攻撃力が足りていない。鎌だとモヒカンのような刺突攻撃も無理。

 逆に、ゴブリン兵の前面の装備は薄い。腰巻以外はほぼ裸体。

 戦車を『押す』以外の行動が想定されてはいないのだろう。


「壁際での攻撃は俺の(ヤマネコの)十八番おはこだ!」


 鎌の柄による『打撃』を、ゴブリン兵の左肩へヒットさせた。


 すると、ゴブリン兵はたたらを踏みながらくるりと回転、隠れていた前面を露わにした。

 そこへアグリの連撃。

 顎を狙って突き上げ、浮いた首を薙ぎ払った。


『CRITICAL HIT』の赤文字が視界上部を過る。


 ゴブリン兵は激しいエフェクトを伴って、(行動不能状態を伴わず)爆散。

 回復不可能状態、つまり死亡したのだろう。


「すげえ連撃だな! オイ!」

「無抵抗のゴブリン兵相手じゃあ、威張れねえだろ。武器も農具だし!」


 興奮したモヒカンがオーガの反撃を回避しながら叫ぶ。

 しかし、直後に腕から脳幹に伝わった刺激は、そんな戯言ざれごとの一つ二つでは抑えきれない興奮と高揚を帯びていた。

 これもまた、神経直結型端末の作り出した電気信号なのだろうが。


(こいつは……悪い気分じゃないな!)


 鎌を振るう腕に力がみなぎった。


 戦車は押し役が二人に減ったためか、明らかに動きが鈍っていた。

 オーガが下車して白兵戦を挑んでくる可能性も考慮されたが(そうなれば逃げる)、オーガにはそんな意思はない様子。残り二人のゴブリン兵にしつこく指示を出し続ける。


 それを見たアグリとモヒカン、「貰ったな」「だな」と拳を合わせた。

 攻略法が確立した上に、スピードも半減。残りのゴブリン兵を狩るのは容易い。


「「行くぞ!」」


 そんな怒号もどちらが先だったか。

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