レベル13
「レベル一で戦闘するなら回復ポーションも必要だったのでは? 情報ソースもなんか怪しいし……」
このままレベル上げに挑むのは無謀と考え、足先は再びアグリ宅へと向いていた。
シーラさんから「今一度、ご自宅に戻られて将来をじっくり考えてみては?」と、人生相談さながらのアドバイスを貰ったためだ。
シーラさんはNPCだから攻略のヒントかもしれない。
「やっぱココだよな、1DKって言ってたし……」
シーラさん直筆マップと見比べる。
もしかしたらとんでもない豪邸が待ち受けているのでは、というアグリの期待を真っ向から否定する廃屋、もとい元キャラの持ち家。
念のため家屋の周囲を探ってみたが、庭で
「あらあらご主人、もうお戻りで?」
カミラさん、再登場。
「俺の農地ってどうなってます?」
農業に興味はなかったが聞いてみた。
「私が管理しておりますよ。収穫物も好きにして良いと言われておりましたので」
(元キャラ気前良すぎ!)と
「どうされました?」
「いえ、せっかく頂いた農地と作物なのですが、少々問題があって……」
「問題? 作物を売りに出されたのですか? たくさん売れ残ったとか?(農地はあげてないからね!)」
「いえ、それ以前に食べられないのです……」
面倒なイベントに陥りそうな予感がしたが、リアル元農民として興味が湧いた。
だから、行ってみることにした。そのアグリの農地へと。
☼
アグリの農地は、『第二城壁』の外に位置していた。
『第二城壁』は高さ五メートルほど。居住区のすぐ
一般に城壁外に出るには東地区の『第二城門』まで迂回しなければならないが、その実、かなり老朽化が進んでいて、人が通れるほどの隙間が多くある。
大半の農民がその隙間を通って畑仕事に出ているそうだ。
いわゆるショートカット。
NPCまでこんな裏技めいたことをしているとは、少し驚いた。
「しかし、これは隙間というより……馬でも通れそうな……」
と、アグリは巨大な穴を見上げた。
「あらアグリさん、もうお忘れで? 今冬にドラゴンがブレスであけた穴ですよ」
「そ、そうでしたっけ? ちなみにそのドラゴンはなぜこんなところに穴を?」
「ご主人」から「アグリさん」へと変化しているのは、そうお願いしたためだ。隣人との上下関係など堅苦しいだけ。
それに、カミラさんはアグリよりも年上のように思える。
「農地を荒らしに来たドラゴンに向けて、投石を試みたおバカがいたのです。それでドラゴンの怒りを買って、城壁がこのように……」
嘆息交じりで答えるカミラさん。
「確かにおバカの所業だな……でも、なぜドラゴンがこのような農地に現れたんです?」
「戦火が広がったので山の食べ物も不足したのでしょう。ここは冬大根の産地ですから」
「なるほど……ってドラゴンが大根を食べるのですか? イノシシじゃあるまいし!」
「私も知りませんでした……あとサツマイモなんかも好物のようです。ブレスで畑を丸ごと焼いて、美味しそうに食べているのを見たことがあります」
ドラゴンがホクホクと焼き芋を食むシュールな光景が脳裏に浮かんだ。
(草食恐竜みたいなものなのか……?)
そんな攻略に役立つとも思えない話題を繰り返していると、目的地へと到着した。
『ラブリーアグリ農園・ご用件は管理人カミラまで』
「なんです、この立札?」
「アグリさんを忘れないよう畑に名前をつけてみました。いけませんでしたか?」
(元キャラとは本当にただの隣人関係だったの?)と思わなくもなかった。
「それで問題の収穫物ですが……」と
出てきたものはジャガイモのような根野菜。どれもが大粒。
しかし、かなり肌色が悪い。
カビとはいかないまでも、青リンゴのようにまだ熟し切れていない様子。食欲を掻き立てる色でもない。ゲーム世界の根野菜は特別なのか。
「何ですかこれ? ジャガイモのようにも見えますが……」
「ようにではなく、ジャガイモです。ですが、このように色が悪くって……」
「あの……
「えっ、覆土? 土寄せ?」
小動物のように小首を傾げるカミラさん。
AIの仕業だろうが細かな感情描写までしっかり作り込んである。
しかし、AI制御のNPCなのに覆土までは知らない様子。
「それですよ……基本、ジャガイモの
田舎では子供でも知っている常識だが、都会では意外に知らない人が多い。
家庭菜園で育てたジャガイモを食べて食中毒はよく聞くし、八百屋でも陽の当たる屋外で平然と並べられていたりする。
小粒のものも良くない。皮の比率が上がるため、ソラニンの含有率も上がるのだ。少しでも渋みやえぐみを感じたら食べない方が無難だろう。
「まあ、そうでしたの! 一部の方には便秘に効くと評判でしたのに……」
「それって中毒症状だからね!」
「ええっ!」と驚き、がっくり項垂れるカミラさん。
リアルでもなかなか見なくなったリアクションに、満足顔のアグリだった。
「ジャガイモは大きくなると、どうしても土の表面に盛り上がってきてしまうので、覆土や土寄せといって上から土をかけて日光を遮らねばならないのです」
アイテムストレージから『鍬(耐久値激ヤバ)』を取り出し、手本を見せる。
それを見て「まあまあ」と目を丸くするカミラさん。
「せっかくですから、未収穫のものだけでも土寄せをやっておきましょう」
「お日様を遮ると食べられるようになるのですか?」
「一度、変色したお芋は諦めなくてはなりませんが、地中にはまだ小芋が残っている筈です。色の悪いものは間引きして、小さいのが大きくなるまで待ちましょう」
「ハイ!」と幾分元気を取り戻したカミラさん。元気にパタパタと畑へと駆け出していった。
そんなカミラさんを放置するわけにも行かず、「やれやれ……」と畑仕事に精を出すアグリだった。
☼
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