Phase 3 戦闘するの?

レベル14


 次にアグリが向かった先は、『第三城壁』だった。


 レベル上げを開始するにはまだまだ下準備が足らないが、女商人から買った情報を確認するためと、可能ならば『ネイチャーウェポン』をゲットできれば、と考えていた。


 幸いにして先程収穫した(食用可能な)野菜もある。

 回復ポーションほどの即効性はないが、食べることで「ちょっとだけHPを回復できる」とカミラさんから教わった。


 ただし、問題も残った。

 これもカミラさん情報だが、「無許可で第三城壁を越えると厳罰に処せられる」と言う。


「そんな話まで聞いてないよ……」


 しかも、あの業突張ごうつくばりの女商人よりも、カミラさんの方がしっかりした情報を持っていた。しかも無償。


「回復ポーション、だまし取られた……」


 戦争、モンスター、密貿易、農業の害獣などの観点から『第三城壁』は強固に造られてはいるものの、長い間メンテもされずにほころびが生じているのは『第二城壁』と同じだそうだ。

 意外なほどあっけなく、人一人通れるほどの隙間が見つかった。


「それにしても、ここまで財政難だとこの国も危ういな……」


 アグリは独り言ちりながら『第二城壁』の倍はありそうな『第三城壁』を越えた。


  ☼


 城壁南部は『樹海』が広がっていて、いかにも何か出て来そうな雰囲気だった。

 リアル世界ならば、『きけん! 立ち入り禁止! ガオー!』のクマさん看板が出ていても不思議ではない。

 代わりに、こんな看板があちらこちらに立っていた。


『命は親から頂いた大切なもの。もう一度、家族のことを考えてみましょう。一人で悩まずまずはご相談を・ロットネスト王宮社会福祉課』

『借金の解決は必ずできます! プレイヤーギルドお悩み相談窓口に来てください!』

『家で死ね! 美しい狩場を守る会』


「……………………」


 この樹海情報は女商人から聞いていた。

 危険なことはアグリも重々承知。

 アグリの中の人――山鳥タクミは山育ち。この程度の樹海は気にも留めない。目的のネイチャーウェポンもこの樹海の奥にあると聞いているし。

 しかし、これら看板の存在は聞いてない。

 とても立ち入り辛い雰囲気が漂っていた。


「あの女商人、なにか勘違いしてないか? もしかして、プレイヤーギルドのシーラさんも……?」


 『お悩み相談』窓口嬢シーラさんが、アグリへの『王宮からの手紙(レア)』を見た直後、表情が硬かったのはそういう理由なのか。


「裸一貫の説明の時もなんだか必死だったし……自殺するとか思われてないよね!」


  ☂


 『ネイチャーウェポン』は『アーティファクト(人工物・工芸品)』の対義語として使われることがある。

 ゲーム世界では、生産系プレイヤーが苦心して作り上げた武器、防具、アイテムなど敬意を込めて『アーティファクト』と呼ぶことが多い。

 つまり『ネイチャーウェポン』とは、基本、未加工の武器防具(稀にアイテム)を指す。

 ゴブリンやオーガが装備する『棍棒』『石の斧』『革の腰巻』、そこら中に落ちている投擲に仕える『石ころ』などがその代表か。


「おっ、あったあった……」


 見つけたのは竹林だった。

 アグリの『ネイチャーウェポン』は、青竹を用いた『竹槍たけやり』。


 『竹槍』と聞いて、馬鹿にすることなかれ。


 ゲーム世界の大半で最安値のゴミ装備だが、実は原始時代から現代に至るまで、世界中で利用されている非常に有用な武器である。

 安価かつ入手が容易という理由だけでなく、実は殺傷力も非常に高い。

 斜めにカットしただけで十分脅威だし、火であぶれば攻撃力(硬度)と耐久が大幅にアップする。先端にナイフや矢じりなどを取り付ければそれこそ凶悪。


 アグリが刈り取ったばかりの青竹は『攻撃力0・耐久値4』のゴミ装備だったが、先端を加工すると『攻撃力2・耐久値5』へと上昇した。


 戦国時代、かの明智光秀を打ち取った武器がこの竹槍とも言われている。

 江戸時代の百姓一揆では、メインウェポンの一つだった。

『ドラ〇エ』でも『竹槍』で竜王を倒せる。


 ちなみに、百万本売り上げた大ヒット農民アクションシューティングゲーム――フ〇ミ〇ン版『いっ〇』では、『竹槍』を装備すると農民はパワーアップする。

 しかし、『あたり判定』がなぜか上方固定となり、かえって敵(忍者)と戦い辛くなる。足が速くなるだけで実際は弱体化する。

 クソ〇ーと酷評される一因かもしれない。

 あのゲーム以降、『ドラ〇エ』などでも最弱武器として『竹槍』は受け継がれ、ゴミ装備の定番へと成り下がっている。


「農民をバカにしやがって!」


 アグリは竹を採取するついでに、アバターの動作確認を行うことにした。

 先ほどの農作業でも確認できたが、『くわ』は打ち下ろし専用武器(農具)のため(これも『いっ〇』に似ている)、それ以外の動作確認の必要があった。

『草刈り鎌』で横薙よこなぎや連撃を繰り返し、青竹を刈り取っていく。

『いっ〇』のように鎌を投擲には使用しなかった。あの行為は危険すぎる。


 青竹を刈り取っては先端を加工し、ホクホク顔でアイテムストレージに収納するアグリ。

 アバターの動きに疲労が見られたら、『おにぎり』と竹林で見つけた『タケノコ』で休憩。タケノコは鮮度が良いと生でも食べられる。

(意外に堪能できるな。ゲーム世界の農民ライフ……)

 などと思っていたら、早速、問題が発生した。


 竹は割る度に甲高い「パキーン」とした音が樹海に響き渡る。

 リアル野生動物ならばその音で逃げ出すが、このゲーム世界の食物連鎖の頂点は人間ではない。

 振動を伴う足音と共に、ソレは姿を現した。

 視界の上部に一瞬だけテロップが表示された。『warthog』と。


「ワ、ワートホッグと読むのか? こいつがここのイノシシってやつか?」


  ☁

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