レベル6


「なんだ、コレ……」


 このデジタル時代に珍しいダイレクトメールを宅配ボックスで見つけたのだ。

 地球環境悪化、天然資源枯渇が深刻化してから、こういった使い捨て紙類は国連主導の『地球税』が掛けられ激減した。

 燃やすための燃料どころか、紙のリサイクル時に発生する熱や二酸化炭素までが有料、今はそんな時代なのだ。

 近年では、あのトイレットペーパーでさえ高圧洗浄型ウォシュレットに取って代わられ姿を消しつつある。


「パスワード認証……?」


 ダイレクトメールの紙面に発行者名はなく、シールによって封印されたバーコードのみが印刷されていた。

 パスワード化されたアドレスの類だろうか。

 これを個人認証されたスマホかPC端末で読み取ると、何らかの通知かプログラムを受け取ることが出来る。

 かなり古臭い手法だが、金融や行政のオプションサービスとして残っている。

 大抵の場合、こういった手法を利用するのは税金や保険金の催促の類だ。


「キーは一度きりの使い捨てか……また外国から税金の督促状とくそくじょう? 嫌だな……」


 日本軍の予備役に登録した覚えはないので、徴兵はないだろう。


 急ぎ足でエレベーターへ乗り込む。

 スマホでも内容は確認できるが、お買い物用サコッシュで両手が塞がっていた。

 冷蔵庫に食料を投げ入れ、早速端末で読み込む。

 データが大容量であることも考慮し、スマホでなく、据え置き型のメインコンピュータを使用した。


「ビンゴだ!」


 ありきたりの通知でなかった。

 バーコードを読み取った直後、ダウンロードが始まったのだ。

 ベータテスト版や開発途中のゲームなどはこういった手法で受け渡しする場合もあると聞いたことがあった。

 だから、スマホではなく、メインPCを接続したのである。

 俺のスマホは魔改造を施し、一テラバイトのプログラムまで対応しているが、完全攻略や解体まで目的とするなら処理速度がネックとなる。さらに、送られたキーが再利用できない事態を見越した上でのダウンロードだった。


「これってゲームだよな……」


『test file ver. 4.5 』とのみ記された詳細不明の圧縮フォルダにカーソルを当てると『2.5テラバイト』の表示。2Dモニターゲームで大きすぎ、最新の神経直結型バーチャルリアリティゲームでやや少ない容量だ。

 解凍したが、説明書らしきファイルも見当たらない。

 ゲームを起動させるコンソール探しにも難航しそうな予感がした。


「スマホ……じゃないよな」


 とりあえず繋いでみた。

 しかし、接続直後にあえなく弾かれた。『ERROR(エラー)』表示。

 次は現行で最も人気のあるゲーム専用コンソール。攻略用にメインPCと接続したものだ。

 かなり有力だと思っていたが、これもエラー表示。


「一度、プログラムを解体した方が早いか……?」


 だが、開発段階のプログラムだと破損すれば修復は不可能に近い。

 盗用防止に自壊プログラムが仕掛けられている可能性も考えられる。

 結局、手当たり次第となった。

 昭和時代から最新機までバーチャルコンソールは確保してある。それらすべてを試すしかなかった。

 問題はその数がバージョン違いも含め五百は下らないことだが、「休校届を提出したから」と無理やり納得させた。


(二テラバイト以上のPGとなると、令和以降?)(今更、神経直結型でもないVRゲームでテスター募集しないよな)(容量的にサーバーが存在するだろうな……)


 そんな勘に任せてあたりを付けていくと、思いの外早く(二時間後)ヒットした。

 俺が中学時代にはまっていた『TACT社』の神経直結型端末だった。専用コンソールを必要とせず、PCに直接接続するウェアラブルタイプのものだ。


 現行のバーチャルリアリティの走りと言われた端末で、視覚と聴覚の補助機能も備えてあるため、ゲーム以外にも語学教育、医療、身障者の社会活動にも期待された。同世代ならゲーマーでなくとも過去に一度は利用経験があるという代物。

 一世を風靡ふうびした端末だったが、この端末はCPUとメモリが内蔵型だったのが災いした。

 一年後には処理スピード不足が露呈ろてい。しかも夏場は稼働熱で熱い。

 さらに自称有識者たちがこぞって「ゲーム脳養殖装置」と酷評したことで、僅か二年でハードもアップデート可能なコンソールタイプへと移行した。

 そんな残念な機種でもある。


「なんで今更……」


 愚痴った矢先に、早速、新たなエラー表示。

 どうも新しいプログラムは重すぎて処理できないようだ。

 しかし、使用している端末は、メインPCのCPUとリンクさせることで処理速度を数十倍にまで高められるよう改造してある。

 問題はそのリンクのために何かしらのプラグインか専用のパッチファイルを必要とすることだったが。


「エンジニア系ゲーマーを舐めんなよ……プラグインは自作したストックがあるし、パッチファイルなら……!」と大いに燃えた。


 バージョン数とイニシャルだけの名称不明のファイルから解凍後も使用されていないファイルを見つけ、そこにプラグインをあてがう。


「ビンゴだ! さあ起動しろ!」


 側頭部にあるエンターキーを入力した。


  ☼

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