短編52話 数ある初めての電話番号を求めて
帝王Tsuyamasama
短編52話 数ある初めての電話番号を求めて
僕はいたって普通な高校一年生、
ほどよい友達付き合いをし、勉強も宿題を遅れない程度にはまじめに取り組み、部活も中学校から続けていた吹奏楽部に高校でも入って頑張っている。
クラス行事も与えられた役割をちゃんとこなすし、体育祭や球技大会だって自分なりに精一杯の力を出して頑張れていると思う。
吹奏楽部っていうこともあって、女子としゃべることも特に抵抗はないけど……小学校からずっと好きな女子、
……これも含めて普通な男子高校生なのかはちょっとわからないけど。
でもそんな僕の普通な毎日を一変させるようなアイテムが、親から渡された。まじめに勉強頑張ってるからっていうことでくれたんだけど…………
……スマートフォン、略してスマホが、今、僕の勉強机の上に鎮座なされましていらっしゃって
僕のブレザーは、いつもよりとっても重たくなっている。
前までは内ポケットに生徒手帳を入れていたけど、それはカバンに入れて、代わりにこのいろんな意味で重たいスマートフォンを入れている。
本体はきれいな水色。カバーは黄色いの。僕が黄色を好きだっていうことでこれも付けてくれたらしい。手帳みたいにぱたっと閉じて画面を守れる形の物。感触はゴムみたいな感じ?
昨日の夜にひととおり説明書は読んだし、電源もつけてみて軽く画面を操作してみた。充電も大丈夫。
友達が持っているスマートフォンを少し触ったことはあるけど、まだあんまり自分専用のスマートフォンを持っているっていう実感が持ててないかも。
通信のこととか画像などのファイルとかは、授業で
(ここから電話したりメールしたり、できるんだ……)
僕はちょっとそわそわしながら登校した。
今年は鈴菜ちゃんと同じクラス。しかもしかもこの前の席替えで隣の席にまでなれた! そこにこのスマートフォン贈呈の儀。
(これはもう……思い切って気持ちを伝えるステージが整いました! な感じだよね……)
スマートフォンがあれば、おうちの人に『鈴菜ちゃんいらっしゃいますか?』確認しなくても本人に連絡を取ることができる。それも夜でも気にせず連絡することができる。あっ、僕が外にいても大丈夫なのか。頭の中には近所の公衆電話の位置がインプットされちゃっているけど……。
(……あれっ? 鈴菜ちゃんって
僕の周りではスマートフォン・
そしてフィーチャーフォン派が減ってきてスマートフォン派の人が多くなってくるこの時まで僕は携帯電話を持ったことがなかったんだけど……一気に飛び級しちゃった。
僕の高校は携帯電話を持ってきても大丈夫な校則。うーん、でも鈴菜ちゃんが携帯電話を触っているところって、見たことなかったような……?
(僕が意識して見ていなかっただけかもしれないけど)
も、もし持っていなかったとしても、電話帳にいちばん初めに電話番号を入れるのは鈴菜ちゃんだっ。
(もし持っていなかったら鈴菜ちゃんの家の電話番号を入れておこう)
僕は一年三組の扉の前で深呼吸。
(……よしっ)
そして扉を開けて、教室に入った。
(いるっ)
鈴菜ちゃんが先に来ることが多くて、今日もすでに席に座っていた。一時間目が国語だからその準備をもうしているみたいだ。
鈴菜ちゃんは髪が肩を越える長さで、さらさらしている。女子との会話で鈴菜ちゃんの髪の話が話題に挙がることがある。
周りの女子はうらやまし~って言ってる。僕は別にさらさらな髪になりたいとは思わないけど、でもそのさらさらな感じこそが、もっと鈴菜ちゃんが特別な感じの人に見えてくるような気がしている。
そんな鈴菜ちゃんの右隣が僕の席だ。そして……
「お、おはよ、鈴菜ちゃん」
「おはよう、雪士くん」
ちょっと高めの落ち着いたこの声。にこっと笑ってくれるその笑顔。
(……つ、付き合いたくなるのに決まってんじゃん!!)
やっぱりこれだけかわいかったら、もうだれかと付き合ってるのかなー。でももしそうだったらそういう相手と一緒にいるところを見かけてもおかしくないと思うけど……一緒にいるのはいつも女子ばっかりだ。
(僕のいないところで他の男子と会っているかもしれないけど)
「……あれっ、なに?」
「え?」
ちょっとおめめぱちぱちした鈴菜ちゃん。
「ずっと見てるなぁって思って。なにか付いてる?」
「ぅああいやっ、なんでもないっ。まだ眠たいかな、ふあ~」
つい見ちゃうのさ……そういうものさ……。
「昨日は遅くまで起きていたの?」
「うっ! あー、うんー、ま、まぁ?」
説明書読んでましたすいません!
「授業中居眠りしていたら、起こしてあげるね」
「ど、努力しますっ」
なんか笑っちゃってるしっ。
(夜眠る前に鈴菜ちゃんの声を聴けたら……)
……そういうことも可能なのかこのスマートフォン! すごいぜ!
お昼休みの時間。僕は図書閲覧室でこっそり準備していたことがあった。そう。鈴菜ちゃんへのお手紙だっ。
手紙といってもルーズリーフを切って僕のスマートフォン電話番号と名前と一言を添えただけの物だけど。
何回も電話番号を見直した。大丈夫、合っている。あぁでももう一回……うん大丈夫。みたいなのを三回くらい繰り返した気がする。
しっかり折って……それでこれをどう渡すかなんだけど……
直接渡すのは……周りに見られたらあれだし。机の中は……落ちて気づかれなかったらどうしよう。うーん……。
(……げた箱にしよう)
扉が付いているタイプだから、入れる場所さえ間違えなければ見てくれる……はず。
大事な大事なミッションを終え、掃除の時間が終わり、午後の授業が終わり、放課後がやってきた。
「雪士くん、また明日」
「あ、ああ。それじゃ、鈴菜ちゃん」
僕が帰る準備を整えて立ち上がったところで、鈴菜ちゃんがそう声をかけてくれた。いつものにこにこ。今日もかわいい。
そして僕もいつものよ~……に、教室を出られた。と思う。
部活を終えて家に帰ってきた僕は、自分の部屋でそわそわしていた。今日は宿題も出ていない。ただひたすらそわそわ。マンガ読んでてもなんか集中できないというか。
(もう読んでくれたのかな……)
晩ごはんも食べて、おふろも入り、あとは寝るだけ……といっても普段寝ている時間からはまだまだ早すぎるけど。
スマートフォンは目覚まし時計の横に置いてある。部屋から離れて戻ってくるたびに画面をつけて確認しているけれども、着信とかはないみたいだった。
(うーん、やっぱいきなりあんな紙入れられてたら困っちゃうのかな……)
あ、そういえばこれ目覚まし時計の機能もあるんだっけ。ちょっと設
「うあわああーっ!!」
突然ピロピロ鳴りながらブルッブル震えだした! あ、着信って文字が、数字がずらっと……電話番号? あ電話?!
えーっと、この受話器のマークだよな。すーはー。よし。えいっ。
左耳に当て、僕は初めてスマートフォンで電話に出ることに成功した……らしい。
「……あ、えーっとぉー……箱崎で、ございます」
この電話番号を知っているのは、鈴菜ちゃんだけ…………ぁもしかしたらお父さんお母さんも知ってるかもしれないけど。
『もしもし。箱崎雪士くん、ですか?』
キタァーーーーーッ!!
「あ、はい! 箱崎雪士くんです!」
ここでいつもの笑った声がスマートフォンから聞こえた。
『こんばんは、雪士くん。神崎鈴菜です』
……夢じゃない。鈴菜ちゃんの声が聞こえる! すごいなスマートフォン!
「こ、こんばんは、鈴菜ちゃん! 雪士くんです!」
あ、また笑ってる。うんうんいいぞいいぞスマートフォン!
『お手紙ありがとう。雪士くん、携帯電話持っていたんだね』
「あーえっと、き、昨日から、デビュー。うん」
『そうなんだぁ』
なんか、うん、家の電話とはやっぱりちょっと違う感じだ。直接つながってる感じ、いい……。
『その電話番号、私のスマホのだから、登録……してねっ』
ウォーーーーーッ!!
「する! します! スマートフォン来たときから一番目の登録は鈴菜ちゃんって決めてた!」
『わ、私が一番目なの? おうちの番号は?』
「あ…………まだ」
うわまた笑われているっ!
『……ありがとう。雪士くんからも電話、かけてね』
「かけるかける! もう公衆電話探さなくてもいい!」
ちょっと笑いすぎちゃいます?!
『
「あ、そっか、電話番号だけしか書いてなかったっけ。えーっと……」
通話時間が増えていってるー……。
「……こ、今度でいい?」
『うん。メールもまだしていないの?』
「まだ。鈴菜ちゃんを一番目にしたかったから」
やばい。僕めっちゃうきうきしてる。
『……ありがとうっ。くすっ、ふふっ……』
「す、鈴菜ちゃんさっきからすんごく笑ってない?!」
『あはっ、ごめんなさいっ、だって……ふふっ』
ぬおーっ。でもかわいいから許す!
『マンガとかだったら、メールや電話を何回かしてから、ああいうことを言うイメージだったけれど……雪士くん……ふふっ』
「あ、ああいうこと?」
『……お手紙のっ』
「ああ、えっとー、電話番号とー…………ぐあっ!」
ぎゃー! 鈴菜ちゃんめっちゃ笑ってるぅー! というのも、僕が電話番号に添えた文章は
(小学校のときからずっと好きでした。付き合ってください。箱崎雪士。
スマートフォンの電話番号→)
「そ、そっかっ……! 普通はメールアドレス教えてメールしてからかっ……!」
僕はこめかみ付近をスマートフォンの角でとんとんした。
『……明日、部活終わったら……私の家に、来る?』
「す、鈴菜ちゃん
『メールアドレスの教え合いっこ。それと……お返事っ』
またこめかみ付近をとんとんした。さっきより高速で。くすくす笑う鈴菜ちゃんの声を聴きながら。
短編52話 数ある初めての電話番号を求めて 帝王Tsuyamasama @TeiohAoyamacho
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