1 I am dazzled by your charms.
第6話 お師匠様、本当は……
お師匠様は可愛い。
さらさらの髪もすべすべの肌も朝に弱いところも少し背が低いところも全部可愛い。
気が弱くて荒事向きじゃないのに、自分の連れに道々男たちから下卑た視線が向けられると、むっとして小さな身体でかばおうとしてくる。
そんな小さいお師匠様の背に隠れることなんかできないんだけど、その気持ちがもう可愛い。
だってもう、全身からにじみ出ているから。
『僕は大人なんだし、二人の保護者なんだから、しっかりしなきゃ』
って決意が。
(もともと、そんなに世話になるつもりはなかったのに)
不器用で怖がりのくせに一人暮らしをしている
その間、ずっとそばで見てきてしまった結果、結論はとっくに出ている。
もう引き返せない。
こんな可愛い生き物と離れて暮らすなんて冗談じゃない。
ほんの少し追われている身の上ではあるけれど、それは心がけ次第でなんとでもなると思っている。
つまり、常に周囲の警戒を怠らず、何か気にかかることが出てきたら、その時点で速攻潰す。
実際、お師匠様と暮らし始めてここを自分の帰る場所と決めて以来、その辺は抜かりない。
情報収集、鍛錬、果てはお師匠様の与り知らぬところで少しずつこの家にも細工をめぐらせて要塞化していっている。
お師匠様は何があっても守り抜く。
そう思って生活していたのに、あの日簡単に賊に押し入られたのは痛恨の極みだった。
近辺に不穏な影もないからと、相当油断していたのだと思う。
夜中におかしな物音を耳にし、これは早々に始末してやろうと様子を見に行けば、お師匠様が。
あろうことか、暴漢に吊し上げられて、呻き声を上げていたのだ。
肝が冷えたなんてものではなかった。
成人しているはずなのに子どもっぽさの残るお師匠様の顔には、壮絶に嗜虐心を煽る意地と怯えがまだらに浮かんでいて、これは他人の目に触れさせてはいけないものだと瞬時に了解した。
(ああもう、じっくり眺めて心のお師匠様コレクションに加えたい……。小動物にしか見えないつぶらな瞳に浮かんだ絶望と、この期に及んで『絶対に二人のことは守らなきゃ』っていう矜持が表情に出ていてさ。俺を殺す気なのあのひと。愛おし過ぎる)
いわゆる「尊い」なのだが、悠長に尊がっている暇はなく、さっさと賊を潰すことに専念した。
その最中に、賊がお師匠様に無体を働いたときには、完全に頭の中で何かが焼き切れて目の前が一瞬真っ白になった。
その後は少し記憶が曖昧だ。
思考とは分離した状態で身体が独自の判断と反射だけで事態の収拾につとめていたせいだと考えられる。
頭の中は(お師匠様、怪我は!?)でほぼ占められていた。
(隠すからな。痛くても痛いって簡単に言わないし、見えないところなら、こっちからどんなに疑って追及しても「僕も気付かなかったんだ」って言ってごまかすつもりだよな)
絶対許せない。
さてどうやって丸裸にして身体中調べつくしてやろうか、そのついでに、無茶しようとした件お仕置きしてやろうか。
そこまで考えて、ほとんど確信に近いある疑惑が胸の内に広がっていく。
(お師匠様、男性として振舞っているけど、本当は……)
女性なのでは?
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