第2話 拾って育てた弟子に襲われています。(2) 

 ラナンの仕事は、主に魔法を動力源とする家庭用器具の調整である。

 魔導士としての仕事が半分。

 あとは螺子ねじをしめたり、高い天井の灯り用の魔石を交換したりと、何でも屋の技術者であった。


「今日も仕事に精が出るねえ。やっぱり、ああいう可愛い子と暮らしていると、違うんだろうねえ」


 出先の宿屋で、浴場の空調を見終わったところで、主人に声を掛けられる。


「自分だけじゃないっていうのはプレッシャーですよ、実際。三人分稼がないと」


 代金を受け取りながら、ラナンは人好きのする笑みを浮かべた。

 服の上から常に魔導士のローブを羽織っているラナンは、体の線を見せることはないが、はだけたフードからのぞく顔は小さく顎は細い。全体に華奢な印象で、たいていの男性より背が低く、後ろ姿などどうかすると子どものようにも見える。


「あんたが仕事を始めた頃は、正直大丈夫かと思っていたが……。さすがに腕は確かだし、うちの娘たちもあんたが来るって言うと喜んでいたんだがね」


 世間話を始めた主人に対し、ラナンの後ろに控えた背の高い美少女が、鋭い目つきをわずかに和らげてにこりと微笑んだ。 


「お師匠様。次の予定まで時間がありませんよ」


 完璧な笑みを浮かべたまま、腰からわずかに身をかがめてラナンの耳元で言う。


「あ、うん。そうだね。それでは、今日はこの辺で」


 まだ話し足り無さそうな主人に別れを告げて、ラナンは自分の身長を越えてしまった少女を見上げて「行こう」と笑いかける。


「おじさま、またね!」


 二人にまとわりつくように跳ねまわっていたいまひとりの少女が、愛嬌いっぱいの挨拶をしてぶんぶん手を振ってから背を向けた。


 去っていく三人組の後ろ姿が、通りの人混みに紛れて見えなくなっても、主人は長いことその場に立ち尽くして見送ってしまった。


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