母のスマホ
れなれな(水木レナ)
いらないよ!
わたくしはガラケーも携帯してればマシな方で、一向に使わなかったし、番号の交換のしかたもろくに知らなかった人なので、母が、
「このスマホ、あげる」
と言ってきたときはたいそうぎょっとした覚えがある。
別に使わなくなった機種を人にゆずるという行為は変でもなんでもないし、身近でよく聞く話だ。
しかし、それだったら初期化するとか、いらない人間関係のあれやこれやはデリートしておいてほしいのだが、そこは母である。
そもそも、最初っから送られてきたメールの扱いに嫌気がさしたのでわたくしに押しつけようという魂胆だ。
話は令和元年にさかのぼる。
母はアパート経営者で、管理をしているから、定期的にアパートの手入れをしなくてはならない。
それで安い業者に頼んで、屋根と壁のペンキ塗りをしてもらった。
ところがである。
もうすぐ仕上げに入るので見に来てくれと連絡があったので、母が見に行ったところ、なんの前触れも無しに業者が、母を
「モンスターユーザーだと思ってます。パワハラなので慰謝料請求します」
と言ってきたのをわたくしも聴いた。
原因を確かめると、確かに母は業者に文句を言ったことがあるそうで、業者はそれで持病が悪化し、屋根から落ちたと訴えてきた。
しかし、文句を言ったのはいい加減な仕事をするから。
ちゃんとしてと言っただけだと母は言う。
持病についても、それでちゃんと働けるのかと事前に確認したが本人は直ったと言っていたという。
本来、精神的病の人には仕事を頼まない、と母は言う。
逆に病気だと知っていたら、それなりの対処をしたのにと残念がっていた。
ところでスマホの話に戻る。
このスマホ、業者の怨念のような恨み言のショートメールが100通近く保存されている。
母はメールのやり方を知らないから、わたくしが代理で返信したのだった。
やりとりの途中で「被害妄想が悪化しました」と言い始めるから「では、落ち着いて」と返信し、「落ち着いてます」という返信を受けとった後、よくわからないメールを次々と送ってこられた覚えがあり、警察にもっていったら「悪化してるじゃないですか」と言われたが、わたくしは普通に対応しただけだしなあととっても不思議だった。
後になってまたショートメールで「抑うつが再発しました。病院に行って診断書を書いてもらいます」というわけのわからない訴えが来たのでググったが、「抑うつ」というのは「不機嫌」という意味らしいとでた。
つまり、普通のうつとかではないそうなのである。
そんなわけのわからないことを言われても、もともとは母とのことが原因だったはずで、わたくしは全然関係ないのにメールが届くたびに心臓が飛びはね、過換気の発作が起こり、不整脈と診断された。
そう、それはいわくつきのスマホ……。
そんなものをくれると言われてうれしいはずがあろうか。
今さらながら母は、使い方がわからないから年寄り向けの簡単スマホがいいと言っているし、もうそれは写りのいい写真が撮れるだけのガラクタ同然なんである。
以前なら、ありがたく頂戴したかもしれないそれを、わたくしは断った。
欲しい機種があるから、新しいのを自分で買う、と。
しかし実際は、またも業者から妙なメールが届かないかと嫌な気持ちのするスマホだったし、着信音で心臓がどきっとするため精神衛生上もよろしくない物件。
母、解約したいなら止めないから、娘に押しつけようとしないでちょうだいよ、とばっちりはもう嫌よ。
と、わたくしは心の中で思うのでした。
母のスマホ れなれな(水木レナ) @rena-rena
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます