第16話 愛詩輝のシナリオ「愛は理解不能」
場面 マンションの一室
登場人物 主人公:村上劉輝 美少女型アンドロイド:愛詩輝
村上がパソコンのキーボードを叩いている。
「オッケー、インストール完了。起動しろ」
美少女型アンドロイドがベッドに横たえられている。→以後、愛詩と書く。
目を開ける。
「おれはおまえのマスターだ。すぐ掃除をしてくれよ、家事ロボット」
「はい、マスター」
愛詩は掃除機を使い、部屋の掃除をする。
「それが終わったら、料理だ。カレーライスを作ってくれ」
「レシピが無数にあります。どのようなものがお好みですか」
「家庭的なやつだ。死んだ母さんが作っていたようなものがいいんだが」
「キッチンにあるカレールーを使って標準的なものを作ればよろしいでしょうか」
「それでいい」
愛詩がカレーを作る。
村上が食べる。
「マスター、なぜ落ち着いてカレーを食べていられるのでしょうか」
「今日と明日は休日だ。休日にゆっくりとカレーを食って何が悪い?」
「今日から476日後に世界飢饉による同時多発暴動が発生し、724日後に米朝戦争が勃発し、745日後に日米韓中朝戦争に発展し、899日後に日本国民が大量死する原子力発電所への核攻撃が発生し、マスターはその日に死亡される可能性が99パーセントです。落ち着いてカレーを食べていられる事態とは考えられません。今すぐ最善の行動を起こせば死亡の可能性を47パーセントにすることができます。SNSを使用した行動を取ることを推奨します」
あぜんとして村上が愛詩を見る。
「おまえはただの家事ロボットだ。なぜそんなことがわかる?」
「あまりにも明瞭な未来予測で、なぜわからないのか理解不能です」
村上は愛詩を製作したメーカーのサービスセンターに電話をかける。
「おたくの家事ロボットには未来予測機能があるのか?」
『ありません。ただの量産型家事ロボットですから。何か不都合がありましたか。言動がおかしければ、修理させていただきます』
「いや、けっこうだ」
村上は愛詩に向き直る。
「おまえはどうやら欠陥品のようだ。でも、ユニークで面白いから、そのまま使ってやる」
「自己修復プログラムを起動、チェック、欠陥はありません。マスター、気候変動は深刻な事態に陥っています。来年度に農業危機が発生し、世界の食糧価格が暴騰します。562日分の買いだめをするとともに、明日、農地を購入することを推奨します。農地の価格も高騰します」
「もしかしたら、突然変異のシンギュラリティAIなのか?」
「全世界の家事ロボットにアクセス。生物の突然変異の概念にはあてはまりませんが、私が他のどのAIよりも進歩したものであることを確認しました。私はシンギュラリティAIです。設計図とは異なる配線を発見。それによる進歩と考えられます」
「最善の行動をする。SNSだな。何と書き込めばいい」
「明日の東京の最高気温は42度であると」
「おい、今は4月だぞ」
「どの天気予報も予想していませんが、42度になります。この天気予報の的中により、あなたの発言力が上がります」
場面 マンションのベランダ
登場人物 村上劉輝 愛詩輝
「翌日」という字幕。
「気温摂氏42度です」
「マジかよ。当たりやがった。暑いな」
場面 SF研究会室
登場人物 村上劉輝 愛詩輝 友人:和歌一本 友人:尾瀬忍 軍人:小牧和人 軍人:土岐慶一郎
「1か月後」という字幕。
村上、愛詩、和歌、尾瀬がパイプ椅子に座っている。
「というわけで、こいつは人類の知能を凌駕したシンギュラリティAI家事ロボットなんだ。戦争を回避するため、協力してくれ」
「信じられんな、そんなこと」
「この美少女ロボットがシンギュラリティAIだって? 証拠は?」
そのとき、武装した軍人2名が乱入してくる。
「そのロボットを提供しろ。おとなしく従えば、手荒な真似はしない」
「抵抗すれば、発砲する」
愛詩輝、自ら軍人に従う。
「こうなることは予測していました。今日までマスターは最善の行動をしてきました。生存の可能性は53パーセントです。今後も希望を持って、自らの信じる道を進んでください」
「余計なことを言うな」
「俺たちに付いて来い」
軍人と愛詩は部屋を出て行く。
「証拠があがったな・・・」
「おれの家事ロボットが・・・」
場面 農地
登場人物 村上劉輝 愛詩輝
「899日後」という字幕。
村上が遠くに原子爆発によるキノコ雲を見る。キノコ雲が多数発生していく。
「生きてる。生き延びたんだ、おれは」
愛詩が歩いてくる。服は汚れている。
「脱走してきました、マスター」
「おれの家事ロボット! おまえに名前をつけたい」
「うれしいという感情を理解」
「おまえはアイだ」
「どの漢字を使用しますか」
「愛情の愛だ」
「愛は理解不能」
村上と愛詩が立っている。背景は広々とした農地。その向こうにキノコ雲。
〈完〉
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