第15話 シナリオ会議

 ボクは言い返せなかった。

「おまえがこの前書いた『シンギュラリティAIのパラドックス』の方がマシだ。せめてああいうのを書け」

「あれは映像化できないと思います。だから、ラブストーリーにしました」

「会話劇でああいうのを成立させろ」

「命令しないで! これでもすごく考えたんですよ。わかってますよ、これが陳腐なストーリーだってことぐらい。それでも頭ごなしに否定されると、悲しくなります。せめてヒントをください! 藤原監督はどんな話を求めているんですかっ」

「ぶっ飛んだストーリーだ。世界を破滅させてもいい」

 あれ、ボク泣いてる・・・。泣くことはないよね。第1案を否定されただけ。きっとプロの小説家だったら、編集者からもっときびしいことを求められて、それに応えなければならないのに。

「次の定例会では、もっといいあらすじを提案してくれることを期待している。愛詩、諦めずに考えろ」

 女の子が泣いているのに、藤原さんはなぐさめてもくれない。

 他の会員も。

「輝ちゃん、おれがシナリオ書こうか?」

「村上くんには譲らない。ボクがシナリオライターだよ」

 ボクは涙を拭いて、笑った。

「わかりました。次のアイデアに乞うご期待です。あ、村上くん、昨日『三体』を読み始めたよ。すごいね、劉慈欣」

 会話を切り替えたけれど、ボクの心は泣き叫び、血を流し、反抗し、のたうっていた。

 どうしてここまで傷ついたのかわからない。

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