第17話 最低ライン
ボクはシナリオを印刷した紙を人数分用意して、SF研究会の部屋に入った。
「あの、シナリオを書いてきました」
「あらすじじゃなくて、シナリオができてるのか? 読ませてくれ」
映画の監督である藤原会長が喜色を見せた。
彼は今日はつるんと髭を剃っていた。
あれ? 会長って、こんなにイケメンだったんだ。思わず目を見開いて見つめてしまった。なんだか調子が狂って、ドギマギする。ロンゲはサラサラの綺麗な黒髪。格好いい?
会員にシナリオを配る。会長に渡したときは、本当に怖くて手が震えたよ。ものすごく苦心して何度も推敲して書き上げたシナリオだ。批判されたら、また泣いちゃうかも。
みんながシナリオを読んだ。
「うん。いいんじゃないか。最低ラインで合格だ。特に撮影可能なところがいい。キノコ雲ぐらいはCGで作れる」と会長が言って、ボクは安堵した。へなへなとくず折れてしまいそう。
「おれが主人公か。いいキャスティング」
「本当は会長に主役になってもらいたかったんだよ。でも、監督兼撮影だから無理。村上くんは次善の策なんだからね」
「輝ちゃんはツンデレか」
「この配役でいいよ。村上にはアイドル性がありそうだ。愛詩と美男美女で絵になる」
会長に美女と言われてドキッとした。
「起承転結がなってないな・・・」ボクと同じく小説家志望の尾瀬さんが言った。
「それは、撮影できそうにないところをカットしたら、こうなっちゃったんです」
「物足りない・・・」
「まぁいいじゃないか、尾瀬。確かに1か月後からいきなり899日後に飛んじゃって、クライマックスが欠如してるけど、そこはこれから足していけばいい。まだ時間はある。愛詩はがんばった。世界観を創ってくれた。今はこれで十分だ」
今日の藤原さんはやさしい。
「ぼくもこのシナリオはよくできていると思うよ。チョコをあげる」
「ありがとうございます!」
ボクはにやけちゃっている。恥ずかしくて冷静な顔になりたいけど、元に戻らない。
「この美少女型アンドロイド、体にぴったりしたスーツ着ているんだよね?」
「土岐さん、そういうのは着ないと言いましたよね」
「えーっ、未来のイメージをスーツで出そうよぉ」
「愛詩の髪は半分黄色くて、ちょっと近未来のイメージがあるんだよな。俺はその髪好きだ。着ている服も未来的デザインにしたいよな」
か、会長がその髪好きだって言った。その髪好きだ、その髪好きだ・・・。
「いろいろやることありますよ。愛詩、西暦何年ぐらいをイメージしているんだ?」と小牧さんから訊かれた。
「2030年ぐらいですね」
「それに合わせて未来ガジェットがほしいよな」
「映画音楽も必要だな」
音楽と聞いて、ピンとくるものがあった。
「ボクの姉が、音楽をやっているんですが」
「へぇ。テーマ曲とか主題歌とか頼めるかな。どんな曲作る人?」
「女神ーずっていうバンドやってます。音はアコースティック系です」
「女神ーず! 愛詩のお姉さんって、愛詩手世なのぉ?」
「土岐、知っているのか?」
「インディーズの姫君って呼ばれているめっちゃ美形のシンガーですよぉ」
「そこそこ有名な人?」
「その界隈では知らぬ人なしって感じですっ」
「そりゃいいや。愛詩、ぜひ頼んでくれ」
「はい。気まぐれな人だから、引き受けてくれるかどうかわかりませんが、頼んでみます」
姉さん、やってくれるかなぁ?
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