第23話 吸血姫さんは挨拶する。

 次の日目を覚ますと隣に寝ている琴美ちゃんが私に抱きついている。信頼してくれているのか環境の改善に安心しているのかわからないけど、私たちの関係が良好になってきているとみていいだろう。


 しばらくして琴美ちゃんが起きるとじっと私のことを見つめてくる。


「……ソフィー、ありがと」


 一言だけ告げるとすっと眠ってしまう。可愛い、可愛すぎるよ!!意外と照れ屋さんなのかもしれない。最悪な環境のせいでメンタルは強いから私の家にすぐ順応できたけど、素直に甘えたりするのは恥ずかしいみたい。


 琴美ちゃんには滅多に許さない愛称で呼ぶことを許可している。今後長い時間を共に過ごすつもりなのに距離が縮まらないのは悲しい。異世界でも私のことを愛称で呼んでいた人は500年通して50人もいない。友人がソフィーと呼んでいるのを聞いて馴れ馴れしく愛称で呼んできながらナンパしてきたやつはあしらうだけでなく腕の一本貰っていくくらい不愉快だ。


「それじゃあ行こうか」


「うん」


 今日は休日でいつもこの時間帯は家にいるらしいお昼前で失礼な時間でもないので琴美ちゃんの親に会いにいくことにする。もうあってるけどね……。


 ――ピンポーン


「……どちら様でしょう?」


「娘さんのことでお話があるのですがいいでしょうか?」


「……少々お待ちください」


 もちろん急に押しかけて家にあげてくれるなんて普通ではありえない。こんな時には便利な魅了魔法で解決しちゃう。


 玄関に案内してもらった時、父親の信彦さんには魔法がかかっていなくて訝しげにこちらを睨んできたので即座に魔法をかける。


 いまダイニングテーブルで両親2人に私と琴美ちゃんが向き合っている状態だ。


「では早速本題に入らせていただきますが、あなた達は琴美ちゃんに暴力暴言など虐待をしているのは事実ですか?」


「……はい」


 琴美ちゃんの前でするのは私としても辛いけど事実確認を録音機を使いながらしていく。


 魅了魔法では事実を告げることだけを指示していて、自覚がなければ頷くことはない。やはり自分の意思で虐待していたということか……。


 そのまま何件か続けているうちに母親の由美さんが肩を震わせ表情を暗くしていく。


「ひ、ひっく、本当はこんな事するつもりはなかったんです……。夫がアルコール依存症でお金を減らす日々を重ねていくうちに家計が厳しくなって私が風俗とか夜のお仕事でお金を稼いでいたのです。そうしているうちにストレスが溜まってその矛先を娘に向けていました」


「お、おい!そんなこと聞いてはいない!なんでお前が犠牲にならなければいけないんだ。琴美に働かせておけばいいだろう!」 


 ん?由美さんの言っていることはわかるが、信彦さんの言っていることは本当に意味がわからない。私の魔法にかかっていなかったらおそらく暴れているだろう。反抗しようという意思がひしひしと伝わってくる。


「そもそも琴美が生まれてこなければこんなことになっていなかったんだ!お前のせいで由美は私の相手をしてくれなくなったし、2人っきりの時間が減ってしまった!ずっと2人でいれれば幸せだったのにお前のせいで!」


「は?つまりただの嫉妬で酒に溺れて虐待に至ったというわけですか?」


「嫉妬なんかではない!琴美が由美と私の時間を奪ったのだ!」


 あ、これダメなやつだ。自尊心が高い上に依存症のせいで思考力が低下しているのかわからないけど言ってることが無茶苦茶だ。このまま話しても琴美ちゃんを傷つけるだけだし、信彦さんから話を聞くのは終わりでいいだろう。私は魔法で黙っているようして行動を禁じた。

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