第6話 登校中

 俺は今日久しぶりに朝早く起きる事ができた。今日は珍しく二度寝をしなかったからだ。まぁ一番の要因は今朝の出来事だろう。あれのおかげで今は目がえている。


 今俺の部屋では、料理の音が響いている。しかし、料理を作っているのは俺ではない。今俺は何をしているかというと昨日出来なかったイベントをしている。そう、俺はゲームをしているのだ。なら、料理を作っているのは誰かというと、昨日一緒に寝ることになったあおいだ。



一時間前


「今日ご飯は食パンでいいか?」


「え?すぐるっていつも朝はパンなの?」


「そうだが?悪いか?」


「悪いよ!朝はバランスのいい食事をしないと元気が出ないんだからね!」


 俺は食べれれば良いとぐらいにしか考えてなかった。だからバランスなんて全く考えずに食べていた。


「だから私が作ってあげる!」


「碧は料理下手じゃなかったか?大丈夫か?」


「あれから何年経ったと思ってるのよ!ちゃんと美味しいって言わせてやるんだから!」


 そう、俺が作って貰ったのは小学生だったからか




 そして今に至る。

 俺と碧は制服に着替え、俺は昨日出来なかったゲームの続きをし、碧は朝ご飯を作っている。最後に作ってもらったのは小学三年生のときだった。しかし、その料理は見た目も味も破壊的なものだった。碧は料理が上手くなったと自信満々に言ってたが、正直不安しかない。そう考えながら今日のノルマをクリアしていく。


「傑。出来たよ。」


「おっ!出来たか。今行くよ。」


 俺はちょうどいいところまででゲームを中断し、食卓に向かう。俺は一人暮らしには大きいだろうが1LDKの部屋に住んでいる。だから食卓は一人用ではなく友達が来た時のために大きいものを買っている。いや、親に買わされているというほうが正しいかもしれない。しかし、修一しゅういちわたるをまだ招待した事はないから碧が初めてだ。そして、その机で碧と向かい合って座る。

 


「おっ!スクランブルエッグとキャベツの千切りと豆腐の味噌汁かぁ。こんな普通の朝ごはんは久しぶりだな。」


(最後が小学生の頃だったからそれよりも成長しているようだ。見た目は問題なく出来ている。でも問題は味だ。)


「美味そうだな。見た目だけは。」


 そう言うと碧はムスッとした顔をして答える。


「もう!何年経ってると思ってるのよ!見た目だけじゃなくて味も良いから!早く食べよ。」


「お、おう。それじゃあ、頂きます!」


少し碧を怒らせてしまったようだ。言葉には気を付けないとな。


(小学生の時は見た目も味も破壊的だったからなぁ。)


 ごくりと唾を飲み込み覚悟を決める。恐る恐る手を伸ばす。そして、一気に頬張る。


「ん!?美味いぞ!本当に!」

 

「ここのところ、朝は食パン焼いて食べることばっかりだったからなぁ。本当にありがとう。」


 俺がそう言うと碧は頬を赤らめ、顔を隠すようにして俯く。


「そ、そっか。よかった。」


「傑のために頑張ってよかった。」


 碧はボソッと小声で呟いた。


「ん?何か言ったか?」


「何でもない!早く食べないと学校に遅刻するよ!私、荷物取ってくるから!」


 そう言って碧は朝食を早々に済ませ、逃げるように部屋を出ていき自身の部屋に戻っていった。


 そして、皿洗いや洗濯もの、身だしなみを整え、外へでる。すると外には碧が立っていた。


「なんでまだ行ってないんだ?てっきりもう行ってるのかと・・・」


「昨日一緒に行こうって約束したじゃない!もう忘れたの?」


「あ、ああ。そうだったな。」


(碧はわかってるのか?碧みたいな学校で騒がれるほどの清楚系美少女と俺が一緒に登校していたら他の奴に何言われるか・・・)


 そして、二人で一緒に登校する。学校から徒歩十五分という距離というのもあるが俺が住んでいるのがマンションだから生徒の数が多い。そんな中、碧が通ると男女関係なく振り向いてしまう。そんな碧の隣で一緒に登校している俺は当然のごとく周りからすごい目で見られている。恐らくどうしてあの陰キャがあんな子と一緒に?とか思っているのだろう。碧はそんなこと全く気にしていないようだが・・・


 そうこうしているうちに教室の前までやってきた。


(恐らくここでもすごい目で見られるんだろうな。)


 そう思いながら教室のドアを引く。すると視線が一気に集まる。恐らく朝の様子を聞いたのだろうが特に男子がすごく睨みつけてくる。そして修一がすごい形相で睨んでいる。そのまま何事もなかったように席に座ろうとするが・・・


「なんでお前が篠崎しのざきさんと一緒に登校してるんだ?ああ?」


「や、やめなよ。修一くん。」


 そういって航が俺に迫ってくる修一を止めてくれている。ここは正直に話したほうがいいだろう。


「小学生の頃の幼馴染で、小学生の時も一緒に登校しててそれで・・・」


「そっかあ。幼馴染かぁ。じゃあ付き合ってないってことだな。よかった。よかった。」


 よかったのだろうか。修一がよかったのならよかったのだろう。


 こうして新たな一日が始まるのだった。







 

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