ウサギとカメ
尾木洛
ウサギとカメ
「もしもし、カメよ、カメさんよ」
ウサギさんは、スマホでカメに話しかけます。
「世界のうちで、おまえほど、歩みの遅いものはない。
どうして、そんなにのろいのか」
「なんとおっしゃるウサギさん」
カメさんは、スマホでウサギさんに言い返します。
「それなら、おまえと駆け比べ。
向こうのお山のふもとまで、
どちらが先に駆け付くか」
普段は、仲良しのウサギさんとカメさんなのですが、ちょっとしたことで意地を張り合い、競い合おうとします。
今回も、ひょんなことから駆け比べをすることになりました。
翌朝、ウサギさんとカメさんは、町のはずれにあるいつもの一本杉で落ち合いました。
ここから、向こうの山のふもとまで駆け比べです。
「よ~い、どん!」
ウサギさんの掛け声で、2人はスタートしました。
カメさんは、スマホに「向こうの山のふもと」をセットすると、ナビの指示に従って走り始めます。
ナビが、カメさんにとって最適な道筋を選んで指示を出してくれるので、最短の時間で、こうの山のふもとにつけるでしょう。
さて、一方のウサギさん。
正直なところ、カメさんが最短の時間で移動したとしても、かけっこが得意なウサギさんの敵ではありません。
なので、ウサギさんは、スマホのゲームをしながら、向こうの山のふもとに向かうことにしました。
ウサギさんが挑むゲームは、GPS位置情報ゲーム「モンスタGO」。
位置情報を活用することで、現実世界そのものを舞台として、モンスターを捕まえたり、交換したり、バトルすることができるゲームです。
最近、ウサギさんとカメさんは、このゲームを始めて、すっかりはまってしまっていたのでした。
たくさんモンスターをゲットするぞと意気込んでいたウサギさん。
ですが、なかなか思っていたようにいきませんでした。
モンスターは人がたくさんいるところではたくさん湧いてくれるのですが、町はずれの人気のないところでは、なかなかモンスターは湧いてくれません。
いまウサギさんがいるところは、まさに人気のない、モンスターがあまり沸かないところなのです。
しかも、たまに沸いてでるモンスターは、なぜかとてもレベルが高くて、すばしっこいので、なかなか捕まえることができません。
次第に、モンスターを捕まえるのに必要なカプセルが少なくなってきました。このままでは、向こうの山のふもとどころか、中間地点のお山のてっぺんに着くまでに、カプセルが尽きてしまいます。
カプセルを補給しようと思っても、このあたりでは、補給拠点が全然ありません。
ウサギさんは、一度町まで戻ることにしました。町の大きな公園に行けば補給拠点がたくさんあるので、カプセルを十分補給することができます。
今なら、一度町に戻っても、まだ、カメさんに勝つことができるでしょう。
ウサギさんは、スマホで、調子の良い音楽を聴きながら、ノリノリ気分で町に戻っていきました。そして、町の大きな公園に行き、補給拠点で十分にカプセルを補充しました。
補給拠点では、たくさんのモンスターが湧きました。
ウサギさんは、そのモンスターを捕まえたいと思いましたが、時間がかかりすぎてしまうので、そこは、ぐっと我慢することにしました。
そして、再び、ウサギさんは、向こうの山のふもとに向かって走り始めます。
ほどなく、町のはずれの一本杉が見えてきました。
この一本杉も補給拠点になっています。
ここをすぎると向こうのお山のふもとにつくまで補給拠点はありません。
念のため、ウサギさんは、一本杉でもカプセルを補給していくことにしました。
ウサギさんは、「モンスタGO」の画面を開き、驚きました。
なんとこの補給拠点に、とってもレアなモンスターが拠点ボスとして湧いていたのです。
拠点ボスは、バトルを挑んで倒すことができれば、ゲットすることができます。
なんとか、拠点ボスを倒して、レアモンスターをゲットしたいと思ったウサギさん。ですが、どう考えても一人では勝てそうにありません。
ウサギさんが持っているモンスターのパーティは、防御力はとても優れているのですが、反面、攻撃力はあまりありません。いま、拠点ボスにバトルを挑んでも、負けることはないものの、到底、勝てる見込みはありません。
カメさんが、いれば・・・・。
ウサギさんは考えます。
カメさんのパーティは、防御力は著しく劣るけれど、攻撃力は抜群です。
カメさんのパーティに応援してもらえれば、この拠点ボスにも勝てそうです。
ウサギさんは、スマホで電話して、カメさんにここへ戻ってきてもらおうと考えました。
ですが、カメさんが自力でここに戻ってくるのには、結構時間がかかってしまいます。
カメさんが、ここに戻ってくるのを待っている間にレアモンスターが消えてしまうかもしれません。
ウサギさんは、カメさんを迎えに行こうと考えました。
まず、ウサギさんは、カメさんにショートメールで事情を送信しました。そして、GPSアプリでカメさんのいる場所を確認すると、その場所に向かって全速力で走り始めます。
ウサギさんは、山の入り口にある小川の橋の上でカメさんに出会いました。
ウサギさんのショートメールを読んで、意外に早くカメさんは戻ってきていてくれたようです。
カメさんは、山に登るよりは下る方が断然得意なようでした。
ウサギさんは、カメさんを背負うと、大急ぎで一本杉に戻ってきました。
幸いなことにレアモンスターは消えずにまだ残っていました。
早速、ウサギさんとカメさんは、パーティを組むとそのレアモンスターにバトルを挑みます。
しかし、残念なことに惜しいところで負けてしまいました。
ウサギさんとカメさんは話し合い、戦略を練り直しました。そして、もう一度バトルに挑みます。
今度は、勝利することができました。
二人とも、無事にレアモンスターをゲットすることができました。
二人は、ニコニコご機嫌です。スマホで記念写真を撮りました。
「これも、僕のモンスターパーティの攻撃力があったからだね。」
カメさんがつぶやきます。
「なんとおっしゃる、カメさんよ
さっきのバトルに勝てたのは、僕の守りがあってこそ」
ウサギさんは、カメさんに言い返します。
「それなら、おまえと決戦だ。
どちらのほうが強いのか
バトルで、優劣付けようよ」
町のはずれの一本杉の木陰。
2人は、仲良くよりそって、「モンスタGO」のバトルを始めます。
風は、やさしくそよぎます。
一本杉の葉がざわっと鳴きました。
ウサギとカメ 尾木洛 @omokuraku
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