第14話 別れと始まり
「もう起きようかな」
そんな独り言を言ってから俺は、ベッドから起き上がった。
もう太陽?は上っていて、窓の向こうからは市場のの往来の音が聞こえる。
そういや、シーナのやつ大丈夫かな
昨日の夜は元気がなかった気がしたが、あれだけの重労働をこなした後で、疲れていたのかもしれない。
俺は、コップ一杯の水をゴクゴク飲み干してから、部屋を出た。
いつも、とは言っても一緒に冒険を始めてからのこの二、三日、シーナは俺が起きて食堂に行くといつも先に朝飯を食っていた。もちろん今日もそうだろうと、俺は階段をおりて食堂へと向かった。
「あの子ね、昨日の夜、出ていったわよ」
「は?なんで?」
「そんなの、知らないわ。あなたには何も言ってないの?」
「ええ。何も。」
「私にもどこに行くとは言っていなかったわ。」
食堂のおばさん、そしてこの宿のオーナーの奥さんでもあるまるまるとした白髪混じりのおばさんは、コーヒーらしき湯気が立った黒い液体を飲みながらそう言った。
昨日の夜、真夜中前になってから、いわゆるチェックアウトをして宿を出ていったらしい。
「いったい、どうすりゃいいんだよ、」
また初めに逆戻り。
まぁ、金があるだけマシか。と俺は何千万かするらしい胸の甲冑を指で撫でた。
「は?」
そんな声が出たのは、ゴリラのごとく胸元をさすること5回。盗まれないようにと着ていた甲冑が無くなっていた。
「嘘だろ!!!!」
慌てて部屋に戻る。
ベッドの下、引き出しの中、シーツの裏。
いくらひっくり返しても、あのなんとも言えないアンティーク感の金属光沢は見つからない。
「クソ、嘘だろ。シーナに盗まれたのか。せっかく異世界転生者っぽくなってきたのに、」
なんて、それこそ主人公ぶった独り言を吐き、俺はあまりの虚しさを紛らわすためか、反射的にTシャツの胸元を掴んだ。
「クシャっ」
紙を握りつぶす音。
なんだ?
救いの手であることを願って、俺はそのしわくちゃ中身を胸ポケットから出して机の上に広げた。
「まじかよ。」とすら言うことも出来ず、俺はシワを伸ばして最後まで読んだ手紙をクシャクシャに、グシャグシャには握り潰して、床に投げつけ踏みつけた。
そのくらいで発散出来るような感情ではなく、俺は宿屋を飛び出した。
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