第12話 この世界なら高校生でも風俗に行けるのだろうか
「おにーさーん今日、良い女の子来てるんすけど、どうすか?」
「1時間3000でーす。よろしく。」
2人組の男に押し付けられたチラシには、ネオンカラーのアルファベットが踊っている。
「金髪巨乳美女専門店。北方の魅惑的な美女達があなたに御奉仕します」
どこの世界でも煽り文句は変わらないんだな。
思わずため息。
ちょっと豪華な夕食の後、トイレに行ったシーナを待っている間にキャッチに声をかけられた回数は5回。
東京でも、割と遅い時間に繁華街を歩いていると、お目にかかる事がある。だがその東京のヤツらと比べると、この世界のキャッチは合法なのかなんなのか、声をかけまくっている。
親子連れ、女連れにも見境がない。
「これってどんな店なんだ?」
トイレから戻ってきたシーナにチラシを見せる。
「富裕層相手の風俗店ですよ。」
「なるほどな。」
日本で言うところのキャバクラとかソープとかそんなところだろうか。まぁ、俺は18歳未満だしそんなこと知らないけど。
「明日から、どうします?」
「そうだな。」
きっと、宝くじの2等とか3等とかを当てた直後の人はこんな気分になるんだろう。
仕事をしなくても当分の間は生活に困ることは無いだろうが、かと言ってまだ始まったばかりの異世界ライフをのんびりスローライフに変えるほどの金ではない気がする。
「これがあれば、どのくらいのことが出来るんだ?」
「それは、どういう?」
もうすっかり暗くなって顔の半分を街灯にしながら、シーナは振り向いた。昼間は太陽に反射していた金髪が真っ白に見える。
「たとえば、家が建てられるとか。乗り物が買えるとか。」
「そうですね。」
シーナは、前髪を人差し指にくるくると巻き付けてから、顔を上げた。
「そのチラシの店くらいなら買い取れると思います。」
満面の笑み。
この世界のギャグか何かなんだろうか。とも思ったが、そんなことはつゆ知らずといった様子でシーナは再び歩き出した。
「明日からは、どこに泊まるんですか?」
「え?どこって今のシーナと同じ宿屋だよ」
「お金そんなにあるのに、ですか?」
「1人で困ってる時に助けてくれたし、一緒に冒険者やる仲間だろ?」
「仲間、そうですね。」
眉の辺りで切りそろえられた前髪が、彼女の表情を影で隠す。
魔法なのか、電気なのか、向こうの街灯までのこの路地裏がいきなり暗くなったような感じがした。
「どうしたんだよ?シーナ。」
「なんでもありません。」
「何でもなくないだろ?さっきトイレに行った時に何かあったのか?」
向こう側では、俺みたいなイケメンがこういったら女の子は抱きついて来るんだぜ。と言って良いような雰囲気ではない。
「なんでもないです。明日もクエスト受けるなら早く寝ましょう。」
シーナはそう言って、宿屋のドアを開けた。
俺は、シーナの豹変ぶりと、大金の使い道を考えながら、なんとも言えない変な気分の中で、さっきの風俗のチラシをクシャッとしてゴミ箱に投げ入れた。
カタンと音を立ててから、ゴミ箱の蓋は自動で閉じた。
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