第5話 どうやらここは異世界の様だ。

 「どうやらここは異世界の様だ。」

 少女と話している間に俺はそう思い始めていた。



 船に乗せてくれた金髪美少女は、シーナという名前だった。歳は俺の一つ下。16歳。

 椎名と聞き間違えてしまった俺は、「も、もしかして日本人なのか?」と大声を出してしまったが、平民出身のため姓はないとのことだそうだ。




 「シーナは、何のために、ミシャピレルだっけ?に行くんだ?」

「仕事です。冒険者なので。」


 なるほど。俺はこの子について行って冒険者になり、持ち前の運動神経でモンスターをギッタギタに倒しまくって、その実力と持ち前の甘いマスクでハーレムを作るんだろう。きっと。異世界転生モノの鉄板じゃないか。




 「俺、仕事無くてさ、ついて行ってもいいか?」

俺は苦笑いをしながら、前髪をいじる。

 ほとんどの女子が落ちるであろうイケメンの困り顔。


 「別についてくるのは構いませんが、自分で生活するだけのお金は稼いでください。」

 冷静なのか、わざと冷たくしているのかは知らないが、全くもって正論である。


 おすそ分けした変な味の野イチゴを飲み込んでから、シーナは答えた。



 平原のど真ん中にポツンと生えているため、取りに行くのは命がけで実はかなりの高級品らしい。食べるよりも売った方がいいそうだ。


 


 「おう。そのくらいはするさ。俺の人生は世間的にはアニオタである以外に特に欠点なんかなかったんだ。」

「アニオタ?と言いますと?」

「可愛い美少女をめでる紳士のことさ。俺の国ではあまり美徳とされていないんだ。」

「そうですか。私たちの国では一夫多妻が奨励されていますから、そういうのは欠点ではありませんでした。」


「は?一夫多妻??」

左右に巨乳の美少女を抱きながら寝る妄想が頭の中を駆け巡る。

 落ち着け落ち着け。

 こめかみをぐりぐりとやってから、話を切り替える。




 「冒険者ってのは、どういうことをするんだ?」

「そうですね。モンスターの生態調査や討伐が主な仕事です。冒険者をスキルアップのための足掛かりにして剣の先生や近衛騎士団などのより堅実的な転職をする人もいますね。」


「なるほどな。冒険者ってのは儲からないのか?」

「ピンキリです。儲からなければ装備も新しくできませんし、一発当てれば装備を一新してより高いランクのクエストを受注することが出来ます。」


「要するに、一山当てれば勝ちってことか。」

中学受験でそれなりの偏差値の中高一貫校に進み、高2の夏から予備校に通い始めている俺だ。現実世界、東京に住んでいた俺がどうなったのかは知らないが、異世界でまで堅実に安定志向で生きることはないだろう。



 「はい。私も、上流の街で一山当てたおかげでこの船を買えました。」

「ところで、信也さんは、剣術や魔法はできるのですか?」

 夢を見せた後に現実を突きつける。大人の手段だな。



 「俺の故郷には、剣道というものがあるんだが、15歳のころまではそれをやっていた。」

「それでしたら、Cランクのクエストも行けそうですね。」

 海風ならぬ川風に髪をなびかせながら、シーナは微笑んだ。

 

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