第3話 ここはアフリカではないのかもしれない①
「なんだこれ?」
思わずそう言ってしまうほど、木の実は俺の想像していたものと違っていた。どう見ても野イチゴの仲間であろうこの木の実は、リンゴのような少しシャリっとした触感で、なおかつ桃のような味がする。甘いというより酸っぱくて少し苦いくらいの感じだろうと思っていたから、俺の想像というか予想とはかなり違う。
どうしてもぬぐえない違和感はあるが、味と食感、見た目を気にせずに味だけで言うならかなり美味い。ここがどこなのかもわからない時に、そんなことを気にしている場合ではないだろう。
川岸から手を伸ばして時々水を飲みながら、ポケットの中身を半分ほど平らげた時だった。
「あれ、船か?」
川の上流からなにやら流れてくるものがあった。
「おーーい!おーーーーい!」
俺は羽織っていたユニクロのパーカーを脱ぎ、キャラT丸出しの状態で、灰色のパーカーを旗のように振った。
「盗賊とかだったらどうしよう」ということも考えはしたが、今の俺から奪えるものは服と臓器くらいしかない。金持ちの観光客でも何でもないただの高校生。「そんなやつを襲うことに何のメリットがあるというのだろうか、いやメリットなど何も無いだろう」と無理矢理こじつけることにした。
「呼び止めてすみませーん!」
大声のおかげか、ユニクロのパーカーを振り回したからか、船は俺の前で泊まってくれた。
エンジンがついていない妙な形の船である。大きさはマイクロバスくらいの帆掛け船である。ただ、帆掛け船とは言っても大航海時代の海賊船のような立派なものではなく、船のど真ん中に大きな帆が一つだけあるシンプルな形。先が尖っていることを除けば、いわゆる”いかだ”のような構造。それでいながら、船の上のどこにも人の姿は見当たらない。
「すんませーん!おーーい!ヘルプミー!ボンジュール!」
返事はない。
「とっとと黙って乗れってことか?」
スニーカーを履いたまま、俺は川をバシャバシャと歩いてその船に近づいた。川は川岸のところは浅いものの、かなり急に深くなっていて舟の傍に着くころにはもうつま先しか足が届かず、半分立ち泳ぎのようになっていた。
「ふぅ。」
俺は船の縁につかまって息を吐いた。泳ぎは得意だが、服を着たままというのはきついもんだ。
「すみませーん!」
とそう声を出しながら、俺は誰もいない船の上に登った。
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