5時のロープウェイ
約束の日。
私は祖父の家に最後のお別れをすると、佐藤さんの工房に向け出発した。ネットで検索をしてみたが、工房のホームページはないようだった。佐藤さんの年齢も年齢だし、ホームページがなくてもおかしくはない。
スマホの地図アプリに住所を入れてみたが、山の中だからか正確な場所はわからなかった。最寄りの電車の駅はわかったので、降りたらその辺で誰かに聞いてみよう。それでもわからなかったら、ロープウェイを降りたところで工房に電話をし、佐藤さんに誘導してもらって歩こう。
祖父の家から佐藤さんの工房までは、かなり長い道のりだった。祖父の家の近くのバス停からバスに乗り、電車に乗り、新幹線に乗り、また電車に乗り、違う電車に乗り換えて終点で降りたら、4時間が経っていた。
電車の改札口を出てぐるりと見渡してみると、右手の方にロープウェイの乗り場が見えた。ほんの50メートルほど歩くと着いた。今は夕方4時を少し過ぎたところだ。時刻表を見たところ、夕方5時の文字以外書かれていない。佐藤さんは終電が5時と言っていたが、そもそも1日にこの1本しかないようだ。帰りは気にしなくていいと言ってくれたので、ロープウェイ以外の帰り方もあるのだろう。
新幹線の中でクロワッサンをひとつ食べたきりだ。小腹がすいたし、そこの喫茶店で何か食べながら待つことにしよう。その前に、佐藤さんに電話してここまで来ていることを伝えた方がいいかもしれない。私は工房に電話をかけた。
「あ、小川です。佐藤さんですか?」
「はいはい。ロープウェイのところに着いたんですね」
「そうなんです。お知らせしておこうと思いまして」
「もう少しですね。待ちきれませんよ」
「そんな風に言っていただけて嬉しいです!」
「久々のお客さんなのでね。次はいつ来てくれるかと待ち続けていたんですよ」
「そうなんですか。じゃあタイミングが良かったですね! 私も、佐藤さんのお仕事への思いを早く聴きたいです」
「そう言ってくれて嬉しいですよ。私なんて不器用でね、この仕事がなくなったら何もなくなっちゃうんです。この仕事を続けるためならなんだってするんですよ」
「そんなに強い思いがあるから、あんなに素晴らしいものが作れるんですね」
「まあ、来てからゆっくり話しますよ。時間はたっぷりあるので」
「ありがとうございます。では、5時のロープウェイに乗っていきます。そこからの道がわからないので、またお電話してもいいですか?」
「大丈夫、迎えに行きますよ」
「え、いいんですか? ありがとうございます。それでは、のちほどよろしくお願いします!」
佐藤さんにかなり歓迎されているようで嬉しい。早く工房に行きたいというはやる気持ちをおさえて、私は喫茶店に入った。
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