第6話 終焉

 俺、エリーゼ、ドロシアの三人は部屋を出ると走った。まだそこら中に兵士がいたが、ドロシアとエリーゼの力で十分に突破出来た。

 俺たちは正面ホールまでやって来た。そこには大きな鉄の扉があって、ここから出るのが一番の近道だと判断されたのだ。


「よし、脱出まで少しだ」

「そこまでです」


 それはまたもや唐突だった。俺たちが明ける前に鉄の扉が開き、そこに純白のドレスを着たシャコンヌが立っていたのだ。


「ま、まさか。お前は死んだはずでは」

「グリモアの魔法によって、私は不老不死の肉体を手にしています。さあ、魔王アリアを差し出しなさい。さもなくば」


パチンと指を鳴らすと、突然彼女の隣に大きな剣士が現れて


「この怪物に八つ裂きにされますよ?」

「上等じゃないか、シャコンヌ君。天使の力を見せてやろう。……ガウス君とエリーゼ君はシャコンヌ君の相手を、僕はあの怪物を始末しよう」


と、彼女は言うと翼を生やして飛び立った。それを見た剣士は彼女を追いかけて行った。


「ふふ、良いでしょう。さあ、ではお二人さんの力を見せていただきましょうか!」

「ガウスさん。私が彼女を倒します。モード『アリア』」


 エリーゼの心臓辺りが紫色の光を放ち、そこから黒い霧が発生。彼女の金色の髪を侵食し、すっかり黒くなってしまった。来ている服も同時に真っ黒に染まり、目は緑から赤に変わった。

 そして、何処からともなく現れた黒い剣を構えた。

 近くにいるだけで圧倒される魔力の風圧に、俺は思わずすくんでしまう。


「正体を現しましたね、混沌の使者よ。だが、心を取り戻したとは言え、私のほうが完全に上位。あなたには勝てませんよ」

「ねえ、シャコンヌ。私がここ数年、人間と接して何を学んだと思う?」

「人間の弱さですか?」


 シャコンヌはゆっくりと剣を抜いた。そして彼女もまた強いオーラを放ち、髪はゆらゆらと宙に逆立ち始めた。


「貴女の滅ぼし方よ!」


 エリーゼは途端、地面を蹴ってシャコンヌに突っ込んだ。その素早い剣裁きを、シャコンヌは余裕をもって受け流す。


「こういうのはどうですか? 剣技『残光』」


 シャコンヌの長剣が宙で3つ4つに分裂すると、一斉にエリーゼ目掛けてとびかかる。エリーゼはそれを避けたり弾いたりしたが、防ぎきれず一本が彼女の左肩を貫いた。


「グアァ!?」


エリーゼはその痛みに顔を歪ませる。


「神によって創られたリリシア・マティ・シャコンヌは、神の意志の継承者。貴方方を滅ぼしてでも、グリモアを完成させるのです。さあ、死になさい」


 エリーゼに振り下ろされる剣。俺は咄嗟に左腕でそれを受けた。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」


強烈な痛みが襲い、俺の腕はぽてっと地面に落ちた。


「あらま、貴方が苦しむ事はなかったのに」

「よ、よくもやったなぁぁあああ!!!」


 エリーゼは怒りに叫ぶと、すさまじい風が吹いた。そして彼女の胸元の輝きが更に増し、膨大かつ濃密な魔力が彼女を取り巻いた。


「ま、まさか。完成させた……!」

「お前を消す! カオス・ブラスト!」


 エリーゼのかざす右手から黒い光の砲撃が放たれ、俺の頬横をかすめ、シャコンヌ目掛けて迫りゆく。


「こ、こんなもので!」


 シャコンヌはそれを両手で受けると、


「わ、私は神の意志の継承者。こ、こんなちんけな魔法で! ぎゃあああああ!!!」


しかし防ぎきれない。彼女はそのまま混沌の光に飲まれて、消えていった。


「や、やったか……?」

「はぁ、はぁ……」


 エリーゼは魔力を使い切ったと見え、黒いオーラが消え去って普段の姿に戻った。

 ドゴーンと遠くで爆発音がした。どうやら空中戦艦ツォルンからの砲撃が始まったらしい。


「急いで脱出を――」


ドーン!


 瞬間、俺の目の前が真っ白になった。


☆☆☆


「…………君……が……君!」


遠くで声が聞こえる。


「おき……ください!」


聞きなれた少女の声。


「起きてください!」


次第に視界のモヤが消えてきて、だんだん輪郭が浮かびあがってくる。

 そこには涙で目を腫らしたエリーゼの緑の瞳があった。


「こ、ここは……?」

「やっと目が覚めたね? ここは僕の背中の上さ」


 今まで横たわっていたところを見ると、なにやらふかふかの羽毛に覆われている。見れば、ここは竜の背中の上のようだ。


「これは……?」

「僕の本当の姿さ。白い聖なる光の竜が僕なのさ」

「ガウスさん、死んじゃったかと思った!」


 エリーゼが俺に抱き着いてくる。


「く、苦しいよ」


俺が離れようとしても、強い力で離れてくれない。仕方ない、しばらくはそのままにしておこう。


「なあ、ドロシア様」

「何かな?」

「終わったんだな、全部」

「いや、まだだよ。実はそこのお嬢さんが魔王の力を解放したせいで、人間から追われている」

「どういうことです?」

「君にもわかるだろう? 僕一人の影響力なんて、せいぜい転生者数人にしか及ばないんだ。人間たちは過去を忘れていない。魔王を恐れ、躍起になって探してる」


 かく言うドロシアの翼を見ると、けがの痕が見られる。


「何時間くらい気絶してましたか?」

「だいたい、20時間だ」

「あれから何があったんです?」

「簡単に説明しよう。

 リリシア・マティ・シャコンヌを倒したのち、メタリカ軍は砲撃を開始した。僕は君たちを救うためにこの姿になって脱出した。ところが、メタリカ軍は僕らにも攻撃を仕掛けてきた。先ほどにも言った通り、魔王の力を解放したことで、人間はそこのお嬢さんを狙っているのさ」

「そんな……」

「仕方がないので、僕らは今、人がいない場所へ向かっている。そろそろ着く頃合いだ」


 眼下には森が広がっており、その先には山があった。

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