第3話 宣戦布告

 メタリカ警察署前に着いた。近年建てられたばかりのそれは、大理石をふんだんに使った豪華な作りで、多種多様な人間で溢れかえっていた。


「ここは?」

「ここがメタリカ警察です」

「へぇ、すごいね」

「天界にいたんだから、なんでも見ているんじゃないんですか?」

「何言ってるんだい。僕ら天界の天使たちは仕事で忙しいんだ。下界の事なんてまるで知らないよ」


 ドロシアと廊下を進んでいると、


「おや、先生じゃないですか!」

「グラーベ刑事! それにエリーゼとエルも?」


驚いたことに、その場に全員集合となった。


「な、なぜ二人がここに?」

「私たち、逃げてきたの」


とおびえるエルに


「ガウスさん、何か重大な事件の予感です」


と、なぜか目を輝かせるエリーゼ。

 ゴホンと一つ咳ばらいを入れて、刑事が口を開く。


「説明は私、グラーベからさせてもらいます。

 実は先ほど、魔法学校に謎の武装勢力による襲撃事件が発生したのです。かろうじて死者は出ませんでしたが、大規模な魔法の戦闘が発生。負傷者が多数出ました。彼女たちは避難と事情聴取目的で署まで来てもらいました。犯行グループは現在も逃走中です」

「ふーむ、タイミング的に元老院の仕業だね」


とドロシア。


「うむ? そちらの方は?」

「彼女はドロシア・サンクトス。私の古い知人です」

「お初にお目にかかります。私はリーベ・グラーベと言います」

「よろしくたのむよ、グラーベ君!」

「え、ええ……」


 グラーベ刑事はこの天使の無礼さにいささか面食らったようだ。耳打ちで


「なんなんです、この子…………」

「すみません、許してやってください」


と会話する。



























ズドーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!!!
































 それは唐突だった。署の入り口付近で爆発音がしたのだ。


「な、なんでしょう?」

「なに!?」

「奴が来たよ」


 ドロシアとエリーゼが一番に身構え、次いで俺と刑事が拳銃を抜き、エルは慌てふためいてやっとのことで杖を取り出す。

 爆発による瓦礫とホコリの白い霧の向こうから


「ふふふ、やっと見つけましたわ。ガウス・カルマートさん。おや。そこにいるのは魔王アリアね。いいえ、こう呼んだ方が良いかしら、”エリーゼちゃん”

と」


緑のドレスの姿がやってくる。


「シャコンヌ!」

「ホーリー=アロー!」


とドロシアが叫ぶなり、光の矢が放たれる。しかし、シャコンヌは片手でバリアを張って、それをはじく。


「クッ……」

「ふふふ、天使様にしてはお行儀がなっておりませんわ」


 パァン!


今度は俺と刑事の銃声。これも同様、彼女のバリアで防がれる。


「ありえん、拳銃だぞ!?」と刑事。

「私のは徹甲弾ですぜ、刑事……」と俺。


 シャコンヌは不敵に微笑むと、


「皆様、困りますわ。私は単にそこのお嬢さんにしか用はないのです」

「「アドウム・ロウマップ!!!」」


シャコンヌが攻撃に転じようとしたその隙を逃さず、エリーゼとエルはその杖から光の砲弾を放ち、


「……ッ!?」


しかしシャコンヌはそれを素手でかき消した。さすがに無傷とはいかないらしく、痛々しく血が飛び散る。


「ええい、面倒な! 皆殺しにしてやりますわ! グリモア・インパクト!」


シャコンヌから黒い波紋が放たれた。


「危ない!」


とドロシアに押し倒され、物が砕ける轟音、そして爆風。


「う、ぐ、うぁぁ……」


起き上がると、俺はどうやら外の中庭に吹き飛ばされたらしい、芝生の上にいた。右わきには「イテテ……」とドロシアが腰をさすっている。


「何事だ!?」


警察官が集まってくる。


「終わりですわ!」


 声のする方を見れば、そこにはシャコンヌが気を失ったエリーゼを抱きかかえている。俺を含めたその場の一同が釘付けになる。


「私の目的は達せられました。これ以上の争いは望みませんので、失礼します」

「どこへ行く!?」


 ズドーンと、俺は彼女目掛けて銃を撃つ。それを軽々しく防ぐと、


「あなた方人間のお相手は彼らに任せますわ」


彼女の周りにいくつも光の塊が現れ、そこから鎧のナイトが現れた。


「それでは今度こそお別れですわ。さようなら」


彼女はホコリの中へ消えていった。







☆☆☆







 私はひどい頭痛で目が覚めた。起き上がると、私はどうやら上質なベッドの上で眠っていたらしい。白くて清潔でシワひとつないベッドは実に久しぶりのものだった。ベッドの横の机にはコップときれいな装飾を施されたガラスの水差しが置いてある。

 部屋を見渡せば、窓が4つ。部屋の壁が正六角形のようになっていて、壁紙は張っておらず石レンガがむき出しだ。ほかには本棚と化粧台が置いてある。

 扉は一つだけ、金属製。

 ダメもとでノブをひねるが、開きそうもない。硬い感触が伝わってくるだけだ。


「だれか、いませんか!?」


――ふと、デジャヴ。以前も似たような経験をした気がした。

 な、何かしら?


「おや、起きたのですね」


 ガチャ。


「失礼します」


 入ってきたのは若い金髪のメイドだった。


「だ、誰ですか?」

「私はこの”アド・アグズベル城”のメイドの一人、ガーランドと申します。この度はわが主、リリシア・シャコンヌ様のご命令により、エリーゼ様のお世話をさせていただきます」


と、彼女は愛想笑いもせずに冷淡に、されど敵意も感じさせずに言った。すると彼女の後ろから


「おやおや、目が覚めましたね? ガーランド、下がりなさい」

「かしこまりました」


 部屋に入ってきたのはシャコンヌだった。白いドレスを着ている。


「さあ、まずは水をお飲みなさい」

「…………」

「御安心なさい。毒など入れていませんから」


と、彼女はベッドわきの水差しからコップへ水をそそぐ。


「さ、お飲みになって」

「…………」


私はシャコンヌへの攻撃のチャンスを伺いながらコップに口を付けた。


「少し昔話でもしましょう、魔王アリア」

「……? わ、私が魔王?」

「ええ、そうですとも。貴女が魔王よ。思い出せない? なら仕方ない。見せて差し上げましょう。貴女の過去を」


そう言うと、シャコンヌは私の額に人差し指で触れた。

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