第11話
早朝シーテの行商人らの馬車の音にて俺は目が覚めた。
ベッドから出た俺は洗面所に向かい、そこで身支度をし、エリーゼの待つ食卓に着いた。
「おはよう、エリーゼ」
「おはようございます、ガウスさん」
カーン。
いただきます、と言おうとした時に丁度チャイムが鳴ったので、俺は渋々扉を開いた。
初めてチャイムを使ってくれたな……
「おはようございます、ガウス カルマートさん。私はフレア王国警察の刑事のアパッシオナートです」
「これはこれはわざわざメタリカまで……それでどう言ったご用件でしょう?」
「先日のメル地方での出来事をお聞きしとう存じまして、こうして伺っています」
「なるほど。でしたら是非上がって下さい。丁度朝食が出来たところなので食べていかれてはどうでしょう」
俺はアパッシオナート刑事を家に上げた。
エリーゼは当初、見知らぬ人が来た事で少々の不安を見せていたが、アパッシオナート刑事が気さくな方であったためか、すぐに慣れたみたいだった。
「おかわりありがとう、エリーゼさん。
ところでカルマートさん。あの日の事をお教え願います」
彼はエリーゼからコーヒーのカップを受け取ると、切り出した。
「どの辺りからでしょう」
「一部始終全部です。我がフレア警察も悲しい事に追いつけていないのです」
食卓で向かい合った彼は俺に頭を下げた。
「わかりました。事の発端は私が留守にしている間に、今回の主犯のラフィンが一つの手紙とエリーゼに呪いを残していった事でした」
手紙を空の皿に乗せて見せた。
「手紙の方は把握しています。もう一つのエリーゼさんへの呪いとはなんでしょう?」
「エリーゼがラフィンの名前を言えなくなる呪いです。恐らくエリーゼに彼女への興味を持ってもらい、私と共にメル地方に誘き寄せるのが目的だったのでしょう。後でラフィンかその部下に訊いてみては?」
「なるほど……。続きをお願いします」
「彼女はメル地方での用意周到な準備をしていました。手紙の内容の廃城は、確かに旧魔王軍のもので、確かに男性の死体がありましたが問題はそこではなく、当時メル地方内で連続殺人事件が起こっていたと言うことの方が重要です」
この言葉にフレアの刑事は首を傾げた。
「つまりはどう言う事なのでしょう?」
「ラフィン一味はどうやってか新聞に出回らぬように村内の人間を無差別に襲っていたのです。恐らくは、計画をフレア警察に悟られぬようにするために……。あの日、ヴンシュさんがそんな事を言ってませんでしたか?」
「それは聞きましたね」
彼はうなづく。
「では、まずどの様にして情報漏洩を抑え込んだのでしょう」
「さぁ、私にはさっぱりです」
「他でもなく公爵を利用したのでしょう。彼しかそんな事は出来まい」
「では、どの様にして公爵にそんな事をさせたのでしょう。目的も分かりません」
アパッシオナート刑事はフレア流の首を傾げる仕草をした。
「脅されていた、と言うのが普通ですが、彼の場合は恐らく、魅了されていたと言う方が的を射ていると思います」
「根拠は?」
「勘です」
「探偵らしくもないですね」
「まあ、どちらにせよラフィンに殺される運命だったわけですし、今回の件には然程影響を与えないと思いますよ」
「それもそうですね」
長く同じ姿勢で座っていたからか、腰が痛くなってきた。
俺は一度座り直した。そして紅茶を一口運び、再度語り出す。
「では最後に、ラフィン一味の狙いは何だったのか。それは他でもなくエリーゼです」
「はて、何故そんな事が言えるのでしょうか?」
刑事は再び首を傾げた。
「では目的がエリーゼなければ、何故ここまで計画を立てていたのでしょうか」
「なるほど。ではなぜ一般少女を狙ったのでしょうか?」
「恐らくは魔力の豊富な生贄を求めていたのではないでしょうか」
「何のために?」
提案すると、少々食い気味に刑事は質問した。
「アパッシオナート刑事部長。貴方もご覧になられた通り、ラフィンの正体はドラゴンでした。先日調べたところ、彼女は黒龍と呼ばれるドラゴンらしいですが、歯を見ましたか?」
「歯、ですか。ええ、勿論。あの鋭く尖った歯並びを忘れる訳がありません」
刑事は身震いした。
「そう、そこに注目をして欲しいのです。では、ドラゴンは何を食べるのでしょうか」
「肉、でしょうか」
「ええ、恐らくは。それも魔力の豊富な生き物のはずです。しかし、近年では人間の技術発展と共に魔獣と呼ばれる生き物は姿を見せなくなりましたね」
「ええ、各国の軍が駆逐しているはずです。数百年前には草原歩けばスライムあり、なんて言われた程モンスターが多かったらしいですが、今では全く見ませんね」
「ならば、もう分かるのでは? これはあくまで推測ですが、彼女は飢えていたのではないでしょうか。いくら人間に化けられると言っても、ドラゴンはドラゴン。野菜やただの動物では飢えをしのげなかったのでしょう。だから人間を襲うことにしたのではないでしょうか」
「なるほど」
「それに、悪魔属の魔物は人が周辺で苦しむと魔力を得ると言います。つまりは彼女が村人を虐殺した理由もこれで説明できるでしょう」
「大変だ! これはいわゆる環境問題にも繋がる訳ですね。報告書にまとめねば!」
刑事は勢いよく立ち上がった。
「そうすると良いでしょう。ラフィンは目立たぬ様に行動しましたが、他のドラゴンもそうとは限りません。是非とも早急に対策するべきでしょう」
こうして俺は無事エリーゼを取り戻し、事件に終止符を打ったのであった。
ラフィンはまもなく処刑される事となった。
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