第2話
旧ファム城はシーテにある、歴史ある城である。その中には帝国議会の会議室や皇帝の自室などがある。ちなみにファムとは昔のメタリカの地名である。
たった今、俺はアルビーニと一人の男とともに食卓についたところである。
「お久しぶりですね、ササキさん」
「ああ、シグレ君こそ。早速だが、そこの彼を紹介しよう」
皇帝アルビーニの態度から察するに、すっかり気を許していたようだった。
「彼はキーター クルックス。日本ではハナリ ショウという名前だった」
と言うことは、この男も日本人か……
「はじめまして、ガウス君。君の話はよく聞いているよ。ところで、シグレ君と呼ぶべきかな?」
キーターと呼ばれた男の年齢はアルビーニと同じ位の五十代に見えた。白髪とシワが目立つが、ゴツゴツとした肉体からは、衰えは見られなかった。
「はじめまして、お会いできて光栄です。是非ともガウスとお呼びください、クルックス軍総司令官殿」
そう言って、彼と握手をした。
「僕を知っていたんだね」
キーターは意外そうな顔をした。
食事を始めると、皇帝が一番に話し出した。
「さて、今回ガウス君を呼んだのは他でもなく魔王の討伐を依頼するためなのだよ」
「私に?」
俺が異世界に来てから、かなりの時が経過していたが、今になって魔王討伐の依頼されるとは思っていなかった。
「その通りだよ。実を言うと、ここのキーター君は魔王と戦ったことがあってね。彼女の特徴に詳しいんだよ。そうだろう?」
成る程、その体格の良さはそう言うことか……
「まあね。とは言え、奴を仕留め損ねたのは悔しい。五年前のアルフヘイム併合は僕が、魔王がアルフヘイムに隠れている可能性があるからと言って、アルビーニにやらせたんだ」
「どう言う事です?」
意味が分からない。
「これも後に話すけれどね。ささ、キーター君。訊かせてやってくれ」
キーターはそれにうなづいた。
「OK。まずガウス君に覚えていて欲しいのは、魔王の強みだ。アリアには三つの槍があった。一つは『底なしの魔力』。もう一つは『不老不死』。最後は『無心』だ」
「無心? どう言う事ですか?」
「文字通り心がないのさ、彼女には。アリアは見た目JKなのに、凄く冷たく残忍で平気で人を殺める事が出来るんだ」
じぇ、JKなんて久々に聞くな……
「……そんなのそこら辺の犯罪者でも持ち合わせていそうですがね……」
大袈裟に語るキーターに傍ら痛く感じた俺は、やや皮肉交じりに言った。
「いやいや、根本が違うんだ。アリアには全く心がなく、喜びも悲しみも愛する事も分からないんだ」
「なるほど」
「だからあの日、このキーター クルックス様が奴に心を植え付けてやったのさ」
キーターは誇らしげに自分の胸を叩いた。
「それが魔王が逃亡した二十年前だ。メタリカ建国の二年前になるな」
皇帝が詳細を添えた。
「なるほど。つまり、かのアリアは心を得て、過去の罪に耐えられなくなり、姿を消したと言う事ですね」
「左様」
「ところで、キーターさん。その魔王の発見にはまだヒントが足りませんぜ。せめて目撃者だけでも……」
「まあまあ、落ち着いてくれよ。話すから……
アリアの身長は百六十センチ代程度で、髪は亜麻色なんだ。彼女は常に仮面を着け、黒いドレスを着ている。言葉数は少なく、話したとしても一週間ぶりなんて事もあったそうだ」
変わり者だったんだな……それよりも、魔王が女性という方が驚きだ。
「さて、これからが現在の情報だ」
皇帝は晩餐の横に置いてあったファイルを取り上げ、広げた。
「最後に人類がアリアを確認したのはキーター君が心を植え付けてから半年後の、つまり十八年前の春の事だった。彼女はもう黒のドレスを纏うことはなく、普通の少女に見えたらしい」
「少し待ってください、ササキさん。一体全体、誰がどこで魔王を目撃したって言うんです?」
「彼女を目撃したのは当時五歳のシルビア ジョコーソだよ。君が以前救った、かの貴族の末裔。彼女はかつて、アリアが一緒に遊んでくれたと言っている。優しそうな目をしていたそうだ。その情報はすぐさま我々の元にやってきた。当時まだギルドだったメタリカは何人もの兵士をアルフヘイムに送り込んだ」
アルビーニはここで息を飲んだ。
「その結果……あれは実に恐ろしかった。西部アルフヘイムの森は焼け、灰すら残らず、兵士らは皆焼けていた。戦闘開始後、すぐに私を含めた部隊が駆けつけたが、そこにはそんな光景が広がっていた」
アルビーニは過去の記憶を思い出して、悲しい気持ちになったらしい。
「それからどうなったんですか?」
「アリアの行方が全く分からなくなった。アルフヘイムに何かしらヒントが残されていると考えて、メタリカ建国後は君も知っている通り、なんとか併合したのさ」
キーターは自嘲した。
「で、得られたヒントは何かあったのですか?」
「アリアがアルフヘイムから逃げ出した事くらいだな……。我々にはもはやアリアを発見し、見つけ、確保する手段は無くなってしまったのだ」
「そこでこの私、皇帝アルビーニから君にアリアの確保を依頼したい」
アルビーニはようやく言葉を発した。
「承知しました。それで、報酬はいくらですか?」
「三億ゲルでいかがかな?」
アルビーニはアッサリと言った。
「さ、三億ゲルですか……良いでしょう。必ずやこのガウス カルマートが捕まえて見せましょう」
俺はその膨大な金額に驚いたが、引き受けることにした。
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